文:尾形聡子
[photo from wikimedia] 2020年、カリフォルニア大学獣医学部と協力し、COVID-19感染者を検知するためのトレーニングを受けたチリ警察犬訓練グループ(Grupo de Adiestramiento Canino de Carabineros)の犬たち。
認知バイアスとは私たちの思考や判断、意思決定に影響を与える偏りのこと。まったく同じものを見ても感じ方や判断が人によって異なるのはそのためです。人々は限られた情報の中で素早く何らかの判断をする必要があるため、あらゆる場面で無意識のうちに経験則や先入観にもとづいて直感的に判断していることがあるのですが、それがしばしば誤解や偏見につながることが知られています。
認知バイアスは哺乳類や鳥類、昆虫などさまざまな動物で観察されているため、動物の生き残り戦略にかかわる脳の働きと考えられています。もれなく犬にも存在しており、犬の場合は認知バイアステストを通じて犬が「楽観的(ポジティブな結果を予測する)」か「悲観的(ネガティブな結果を予測する)」か、いずれの感情傾向にあるかを評価することができます。認知バイアステストがどのようなものかについては「愛犬は楽観的?それとも悲観的?思考傾向を知るための認知バイアステスト」にて紹介していますので、詳細はそちらをご覧ください。
犬の認知研究にて認知バイアステストの使用は増えてきていますが、たとえば悲観的な傾向にある犬は分離不安を抱えていたり、嫌悪ベースのトレーニングを受けていることとの関連性が示されています(「嫌悪ベースのトレーニングは愛犬を悲観的に?」参照)。一方、楽観的な傾向は、幸せホルモンとして知られるオキシトシンを投与した後や、ノーズワークのトレーニングをして嗅覚刺激をたくさん受けることで強まることが示されています(「愛犬にもっと楽観的になってほしい?ならばノーズワークを!」)。最近では、人のストレスのにおいを嗅いだ犬は悲観的な思考を示すようになることもわかってきています(「人のストレス感情のにおいにより、犬は悲観的傾向になるかもしれない」)。
ただし、これまでこのような研究の対象とされた犬は一般の家庭犬が多く、医療探知犬に関しては行われていませんでした。そこで、イギリスのブリストル大学の研究者らは医療探知犬を育成する団体「Medical Detection Dogs」とともに、医療探知犬の思考傾向が探知課題における成績とどのような関係にあるかを調べました。