愛犬とレイクビューのある家に住む夢

文と写真:藤田りか子

森と湖に溢れた国だからこそ、森奥深くの湖畔に家を構えて住む、というのも決して夢物語ではないのがスウェーデンだ。とはいえ、それなりの物件ともなると庶民の手にはやはり届きにくい。おまけに、今では岸辺の土地は岸保護法 (Strandskyddslagen)で守られており、水際から100m内に建物を新たに建てることが禁止されている。(すでに立てられているものを改築したりするのは許可されている)。よって湖のすぐ側に住みたいと思えば、この法の施行以前に建てられた物件が売りに出されるのをただ待つしかないのだ。とはいえ数は限られているうえに人気があるから、価格があがるのは当然。

レトリーバーと暮らしているが故に、なおさら湖畔の住まいに憧れる。今住んでいるところも犬にとっては理想的な場所ではある。周りは森しかない大自然。湖まで歩いて10分ほど。隣の家まで300mはある。でも一通り欲しいモノを手に入れ満足するのも束の間、しばらくするとまた別のモノが欲しくなり始める…. ヒトというのはなんとも欲の皮が突っ張った生き物であることよ!

「窓から見える森の景色もいいけど、やっぱり湖だったらもっといいなー」

と湖畔物件をある期間探しまわっていたが、電気が通っている、速いネットがある、うるさい道路沿ではない、市街地から50km以内、隣に家がない、などいろいろ条件をつけると、ムム、やはり予算では賄いきれず。

あるとき知人がブルドーザーを持っていることを知った。なんと!これはチャンス。我が家の敷地の一部は湿地になっておりボウボウと藪が生い茂っている。窓から眺めながら「これがせめて水場だったらいいのに!」と何度思ったことだろう。

「この湿地をブルドーザーで掘ったら池が作れるかも? 湖畔マイホームの夢が叶わないのなら、せめてその代替案として池でも! 」

と考えたのだ。水場のある住まいには変わりはない。ブルドーザーの持ち主のおじさんに相談したら快諾してくれた。やはりスウェーデンの田舎ならでは。まずはパイロットプロジェクトとして深さ1mほど、面積は10m x2mほどの小さな池を掘ってもらった。

そこはもともと湿地地帯なので水は自然に湧きでてくる。2年後には草も十分生茂げ立派な池に。野生のカモやガンが訪れるなど、自然の一部になっていってくれた。散歩で汚れた犬を洗うときも池はとても重宝だ。池で遊べー!と伝えると犬たちはジャボンと飛び込む。そして水からでてくると、はい、もうきれい。毛にこびりついた砂や泥はすっかり洗い落とされている。

のみならず池は犬たちにとって素敵な環境エンリッチメントの役割も果たしてくれるようになった。庭に放していると彼らは水面に浮いているものをくわえては岸に持ってくる遊びに夢中になる。犬らしい生活、というのはまさにこのことだろう。我が家の池のまわりには、犬が回収してきた枝や根っこのついた水草がよく転がっている。

実はこの池では飽き足らず、5年前にもうひとつ池を掘った。今度は最初の池よりも20倍の広さがある。およそ20mx50mで深さは2mほど。なぜこんな池を作ったのか。一つは寝室からの眺めをよくしたかったから、もう一つの理由は犬のトレーニングに必要となったからだ。ご存知のように、ラブラドール・レトリーバーとガンドッグスポーツで競っている。この中には、水を渡って向こう岸にゆきそこに落ちている鳥を回収するというような技も求められている。その際に、犬は人が指示した場所までまっすぐに泳いで到達しなければならない。しかし、この技能はしっかりとトレーニングをしていないと、犬はできるなら岸をつたって向こう側に行こうとするものだ。これをトレーニングするのにちょうどよい湖は確かに探せばあるのだが、どうせなら自宅にあればなお嬉しい。そこで大きな池なのである。これならいつでも好きな時にトレーニングできる。


今年は回収の技能を学びたい人のためのコースも我が家の池で開催した。水のダミー回収トレーニングを受けるブラッコ・イタリアーノ。

池ができるまで


寝室に面した湿地をブルドーザーで掘っているところ。


ブルドーザー作業5日後。だいぶ池らしくなってきた!湿地なので水は下から湧き出てくる。


池の水量を増やすために近くの小川からポンプで水を汲み上げている。

上は動画。ホースは消防車用のものを借りた。小川の水を池に入れているところ。


3年後。池は自然の中に溶け込み、いろいろな野生動物が訪れるようになった。冬はこのとおり凍る。この訪問者はアカギツネ。

寝室の窓から水場を見渡すたびに幸せになる。春は毎朝カモが訪れ、クアックアッという鳴き声にて起こされる。カモもいろんな種類がこの池にやってきた。一度は13頭でなるイノシシの大家族も訪れた。…というわけで今のところこの大きな池に満足。もうこれ以上欲深いことは申しません!(多分)