文:藤田りか子
[Photo from Wikipedia]
犬種歴史家のD. マクドナルド曰く
「その犬種の本当の良さとは、犬種の由来となった特性を活かして初めてわかるもの」
だから原点に戻り、プードルを連れて鳥を撃ちに行くプードル愛好家がいる。そのプードル達は、ある時は水に飛び込みカモを回収するレトリーバー、ある時はキジを探し出しその場で凍てつくポインター。まだ失われてなかったプードルに流れるガンドッグの血。
「犬が『これは楽しい!』と思うことは、絶対やらせてあげるべき。私のプードルはレトリービングが大好きだったから、その才能を伸ばしてあげただけ」
とシンディ・ストラットンさんは語ってくれた。アメリカのワシントン州にて2頭のスタンダードプードルと住んでいる。彼らのレトリービング好きを猟犬作業として活かし、趣味の鳥猟には必ず連れて行くのだそうだ。
「自分の狩猟趣味のことを人に話すと。みんな驚くんだけど…」
女性で猟をするから驚くのか、プードルで猟をしているのが信じられないのか、シンディーさんはその辺は確かではないらしい。
プードルは今や代表的なコンパニオンドッグ。だが猟犬としてのキャリアを持たずともこのように普段から水に入り、おもちゃやボールなどの物品回収を好む犬がいる。[Photo by Dogogle]
「犬を飼うのであれば、絶対ラブだと決めていました。鳥猟に伴いたいからです。ところが新しく迎えた夫が犬アレルギーと判明。と、彼が『スタンダードプードルならガンドッグだから狩猟に使えるかも』と言うんですよ。プードルは毛が落ちずアレルギーの人でも大丈夫だから、と。でも、プードルがガンドッグってホント~?と思って調べたら、確かにそうなんだけど、それって2世紀も前の話!(笑) 」
そう、プードルはその昔水鳥猟に伴われていた鳥猟犬であった。ウォータードッグだからこその巻毛がその歴史を物語る。
長い間犬なし生活を過ごしてきたシンディさんは夫君の言葉を聞いていてもたってもいられなくなった。広告に出ていた最初のプードルブリーダーに電話を掛け、即日パピーを家に連れ帰った。
「本当は作業犬として適性のあるプードル犬舎を綿密に調査しなければならなかったんだけど...」
と少し反省もする。
「でもラッキーでした。それがトゥーリーだったからですね」
トゥーリーはその後プードルとしてはアメリカで最初のAKCガンドッグテストのシニアタイトルを勝ち取った。
「若犬のトゥーリーを見て、ガンドッグ愛好会の人が『この犬、才能があるよ。真剣にガンドッグとして育ててみないか』と言ってくれたのです。それからですね。あれよ、あれよという間にワーキングプードルとして頭角を現していきました」
プードルは働く意欲が強い。今以て回収犬として活躍するのは別に不思議ではないのかもしれない。[Photo by ugglemamma]
1800年代、アメリカとカナダのケネルクラブの創設時においては、アメリカはプードルをノン・スポーティンググループに、そしてカナダはなんとスポーティンググループに入れていた。スポーティングというのは当時の犬世界の脈絡で「狩猟」を意味する。1900年代初めの頃、カナダのケネルクラブがトイプードルを公認の犬種とした際に、スタンダードプードルと共にノン・スポーティンググループに入れて今にいたる。
そして世界のケネルクラブで唯一アメリカとカナダはプードルをレトリーバーの回収能力作業テストにエントリーすることを認めている(カナダでは1986年に、アメリカでは1996年)。原産地であるヨーロッパにこの制度がないのが不思議なぐらいなのだが!
レトリーバー回収能力作業テストに参加したり実猟犬として働くプードルの数はアメリカ全土におよそ100頭ぐらいといわれている。アメリカの国土の広さを考えると超マイノリティである。しかし、シンディさんのような愛好家は誇りを持ってプードルを回収犬として猟に伴う。
鳥猟回収犬として働くプードル、のみならずショードッグとしても活躍できるプードルをブリーディングしているアメリカのAngie and Rich LouterさんのLouter Creek Hunting Poodles犬舎からの動画。Louter Creek Hunting Poodlesはヨーロッパのガンドッグや犬雑誌にも紹介された。
「私に限らず、プードルを狩猟に使う経緯は偶然に才能を発見するケースが多いのですよ。そこも、はまってしまう故なんです」
とシンディさん。たとえば、家庭でペットとして飼っていたプードルを狩猟家であるお父さんがたまたま山に連れて行ったところ、キジに対して素晴らしいポイントを見せた、その人は以来他の猟犬では物足りなくなりポインターからプードルに切り替えた…、なんていう話はよくあるらしい。
「『猟犬プードル始まり物語』には、枚挙にいとまがないですね。一つ間違いなく言えるのは、我々人間がプードルのしたいことをプードルから教わった、ということです」
生粋のレトリバー種に比べてプードルについて何か特別なところはありますか?と聞くと
「気候に合わせてコートの長さを自由に調節できるのは、他の猟犬にはないプードルだけの特権かな?作業能力について言うと、犬種には各々の良さがあるからプードルがラブラドール・レトリーバーやチェサピークベイ・レトリーバーに比べていいとか、悪いとか言えないのですが」
でも…、とシンディさんは続けた。
「プードルの歴史を見ると、狩猟と一言に言っても様々な使役をこなしてきたし、狩猟以外にも作業犬として重宝してましたね。要は飼い主の意思次第でどんな風にも訓練できる、大きな可能性の器を持つ犬がプードルなんですよ。猟を通してそんなプードルの作業犬魂に触れられたのは、本当にラッキーだったと思います」