文:尾形聡子
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梅雨ごろから気になってくるのが、におい。温度や湿度が高くなると部屋のにおいや体臭など、冬の乾いた季節よりも強く感じやすくなるものです。
そもそもにおいを感じるのは空中を漂う揮発性の物質を鼻にあるにおいの受容体がキャッチし、その信号が神経を伝わって脳に届けられるためです。におい物質の揮発性は気温が上がるほど高まり、湿度が高くなるほど空気中の水蒸気ににおい成分がくっついて空気中にとどまる時間が長くなります。そのため日本では、高温多湿な夏ほどにおいを感じやすく、逆に、低温低湿になる冬にはそれほどにおいが気にならなくなる、という環境条件にあります。
人の嗅覚をもってしてもそうなのですから、犬はよりいっそう温度や湿度の影響を受けやすいのではないか、そんなふうに思ったことはありませんか?
実際、温度や湿度といった気象条件に犬の嗅覚も影響されることがこれまでの研究で示されています。たとえば、気温が低いと検出サンプルから放出される揮発性物質の量や広がりに影響し、そのためにおい検出能力が低下する可能性があったり、気温が高ければパンティングの頻度が高まるため、その影響で検出能力に影響を及ぼしたりすることが示されています。一方で、湿度の上昇は犬が鼻の湿度を保つことや空気中に漂う揮発性物質のキャッチがしやすくなるために、検出能力にプラスに働くことも示されています。
しかし、犬の嗅覚の精度についての研究の多くは麻薬や爆発物を探知するよう特別に訓練された少数の犬を対象として、異なる環境条件下で嗅覚能力を測定しようとするものでした。犬の能力としての嗅覚には個体差や犬種差があると考えられていますが、それだけでなく、前述したように、犬の嗅覚の精度は気温や湿度のほか、体調や運動状態(激しい身体活動をする前後の違い)、環境条件(屋内か屋外か)、そして食餌の栄養状態などによっても変化すると言われています。(栄養の嗅覚への影響について詳細は「犬の嗅覚パフォーマンスは栄養にも影響されている」を参照ください)。
しかし、これまでの研究からは一般の家庭犬の嗅覚能力の全体像を把握することができないため、自然な状況下で犬という動物が探索をして食べ物を発見するという、特別訓練をされていない家庭犬の嗅覚を測定するためのテスト(Natural Detection Task)がハンガリーのエトベシュ大学の研究者らにより2016年に開発されました。そのテストを使用して、同大学の研究者らは、気温や湿度の気象条件のほか、屋外と屋内という環境条件でどのように一般的な犬の嗅覚能力への影響が異なるかを調べるべく、新たに実験を行いました。
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