トリュフを探す犬、イタリアから その1

文と写真:藤田りか子

訪れたのはイタリア北東部、エミリア・ロマーニャ州(州都はあの有名なボローニャ市)、ロマーニャ地方。イタリアが誇るトリュフの産地。この地に「ロマーニャのトリュフ探知犬」なる犬種が存在する。何しろトリュフは土の中に隠れている。人間がそれを探し当てるのほぼ不可能。ロマーニャの犬は、そのよく効く鼻を使って「ここほれワンワン」とそのありかを示してくれる。

トリュフ探しについていく

モニカ・Bさんと夫のマルコさんは、ロマーニャのトリュフ探知犬、こと「ラゴット・ロマニョーロ」という犬種のブリーダー、そしてトリュフ探知犬訓練のエキスパートでもある。その2人にトリュフ探知の現場に連れて行ってもらった。アドリア海に面した東海岸のリミニという彼らが住む都市から、内陸に入り車で約40分。カシやハシバミなどが生い茂る暗い広葉樹の森にたどり着いた。気候が似ているせいだろう。日本の森林植生とよく似ている。

車を降りると、向こうから男性が数頭の犬を連れてやってくるのが見えた。長い杖のついたトリュフ用シャベルを持っている。軽く挨拶。その後またもやシャベルを持った犬連れの男性二人に出会った。どうやらこの森は人気のトリュフ探しのスポットであるようだ。皆、必ず犬を伴っているのだから、イタリアの食文化にまつわる犬伝統を感じずにはいられない。

いよいよ我々のトリュフ・サーチの開始である。モニカさん、マルコさん、そして友人のオスカーさんは森の斜面に入った。そこで2頭の犬たちが放たれる。その瞬間にピョンピョンと走り回る。すぐにトリュフを探すのかと思いきや、2頭は追いかけっこ遊びに興じ始めた。

「若い犬を訓練するのは、これでいいの。森にいくと楽しい!とか、そんな印象を持ってくれれば、これからよりトリュフ探しにはげんでくれるでしょう?」

とモニカさんは説明をしてくれた。犬たちに何か服従を強要するわけでもない。この肩の力の抜き加減が、とてもイタリアらしい。ノーリードで犬たちは好きなように走り回っていた。うっそうとした森だから、すぐに犬を見失ってしまいそうだ。でも彼らは必ず視界内にとどまってくれている。人間から20m以上は離れようとしない。

「人のまわりで常にうろうろしている、というのはトリュフ犬としてラゴットが持つべき大切な性質でもあるのよ」

勝手に遠くにいってしまうような犬では、いっしょにトリュフ探しができまい。特にこんな視界の利かない暗い森であれば。

こうしてトレーニング!

2頭のうち年長のジャコバッチが、ある場所で鼻をくっつけ懸命に嗅ぎだした。そして突然前足で土を激しく掘り始めた。マルコさんは、ジャコバッチの努力をすかさず褒め称えて励ます。

「いいこだ、いいこだ、行け!行け!」

ジャコバッチはさらなる熱心さでもって土を掘り起こす。ときどきマルコさんは持っている長い杖付きのシャベルで大きな石を端にどけて土堀りを助ける。しばらく掘らせてから、マルコさんは根っこのあたりの土塊をとった。それを手のひらで覆い鼻に当てて深く息をすった。微妙なにおいを確認しているのだろう。驚いたことに、人間も嗅覚をつかってトリュフがあるかどうかチェックをするのだ。確かににおいはしたみたいだが、トリュフはそこにはなかった。

「もう、今朝すでに誰かが掘り返してとって行ったみたいだ」

とはいえ、マルコさんは全くがっかりした様子ではなかった。というのも、たとえ掘り返されていてもジャコバッチはちゃんとトリュフのにおいを見つけ出してくれたからだ。これが大事なのだ。マルコさんはポケットからレバーの切れ端を出してジャコバッチに与えた。

「こうして森に来て探知トレーニングを重ねていきます。犬が若いときは別にトリュフの塊を探し出さなくていいのよ」

とモニカさん。

「それよりも、誰かが掘り起こした場所でも確実にトリュフのにおいを嗅ぎ当てたこと。犬はすでに掘り起こされた場所なのかそうではないのかを区別できないのだけど、私たち人間は掘り返しの後をみれば「ここにトリュフがかつてあった」と見分けられます。だからたとえトリュフがなくても犬を褒めて、次へのモチベーションにつなげていきます」

これがトリュフ探知犬トレーニングだという。

もっとも子犬時代にトリュフのにおいがしみついた布切れや、切れ端の入った小さな容器を土に埋めて探させるなど、遊びをまじえたトレーニングも行ってきたそうだ。トリュフのにおいで楽しいゲームを連想させる。麻薬探知犬のトレーニングとほぼ同じだ。きっと昔からトリュフ犬はこんなふうににトレーニングされていたのに違いない。そして彼らは心から楽しんで仕事に従事しているのは、疑いのないところだ。


小さな容器にトリュフを入れて庭の土の中に隠す。それを探させる、というトレーニングを子犬の時から行うという。