文:近藤奈緒子
今回はゲストをお迎えしての記事!ライターは「Scent Line」の代表を務める近藤奈緒子さん。ドッグトレーナーでもありジャパンノーズワークスポーツクラブ (JNWSC) を立ち上げた推進メンバーのお一人です。今日から5回に渡り近藤さんの「北欧、犬をめぐる旅シリーズ」をお届けいたします。
日本の梅雨の鬱陶しさから逃げるがごとく、スウェーデンに向けて一人飛行機に乗り込んだ。当国への渡航はこれで2回目。6月のスウェーデン、空気はからり。花が咲き乱れる美しい季節で、空港から目的地へと向かう車中から、遠くまで広がる菜の花畑や道端に咲くピンクや紫の花々を眺めた。
渡航の目的は本場のノーズワーク公式競技会を見学するためだ。スウェーデンに住む藤田りか子さんからある日
「ノーズワーク競技会を見にきませんか?」
とお誘いを受けた。聞けば彼女のパートナーであるカッレさんが経営している会社施設を借り切って競技会が開催されるという。これなら競技会の見学だけでなく、どのように関係者たちが準備するのか、という舞台裏作業も勉強できそうだ。こんな機会は滅多にない。即決で「YES!」と答えた。
約1週間の滞在ではあったが、私が体験したことは普通の旅では絶対に得られないことだらけであった。これまで自分が見たい、学びたいと思っていたことが全て叶った旅だったと思う。とても1回では書ききれそうもないので、もしよければ北欧の犬事情をめぐる旅記録シリーズにしばらくお付き合いいただきたい。
6月のスウェーデン、ルピナスの花が咲き誇っていた。
私とノーズワーク、その経緯
ドッグスポーツとしてのノーズワークを知ったのは5年前。初めてスウェーデンを訪れたのもその年だ。そのときはノーズワーク競技会がどんなものなのか想像すらつかず、単にそれを見たいがために訪れた。競技会にはりか子さんとカーリーコーテッド・レトリーバーのラッコが出場しており、その応援をしながら見学をしただけ。だが5年後の今回は競技会関係者という立場で、競技会の前々日の準備段階から見ることができた。日頃手探り状態で開催者としての役割を担う私にとってこれは絶好の学びの場となった。
2018年に初めてスウェーデンのノーズワーク競技会を見ることができた。写真は藤田りか子さんとラッコがNW2のエクステリアサーチで競っているシーン。
非公式ではあるものの私はこれまでに日本にていくつかノーズワーク競技会を開催してきた。どんな場所でどんな風に競技会が行われるのか、疑問に思えばYoutubeで検索すればいい。色々とヒットするしそれを参考にもしてきた。だが実際この目でみるのとYoutubeではやはり違いがあり、全てが新鮮であった。駐車場の様子からその会場の規模、参加する人々の空気感、受付時の様子、ジャッジの目線、スタッフの様子、会場の設定などなど。競技前に行われるブリーフィングでは競技者はみな静かにジャッジの話に耳を傾けていた。和やかな空気の中にも参加者全員が真剣に競技に挑もうとする姿勢が伝わってきたのを覚えている。
競技会場の下見
スウェーデンに到着するやいなや、りか子さんと3頭の愛犬達とともに、週末のノーズワーク競技会会場となるカッレさんの会社に直行することとなった。会場の様子を競技会責任者とジャッジにレポートするためだという。
カッレさんの会社はスウェーデンらしく森林関係の企業。森林機械のメンテナンス修理店だ。敷地内には沢山の車両、販売所、修理のためのワークショップ、倉庫、事務所などがあり、りか子さんは私に説明しながらスマホで動画を撮り始めた。私はスウェーデンノーズワーククラブの主催者マニュアルをグーグル翻訳を使ったり、りか子さんから知識をあおぎながら日本語でまとめたことがあるのだが、まさにそのマニュアル通りに事をすすめていた。ジャッジは主催者の動画のレポートをもとにサーチエリアについての大まかな段取りを決めるのだ。そう言ったら
「私よりなお子さんの方がよく手順を知っていますね!」
と感心されてしまった。競技会のための事前調査の手順はすべてマニュアルに記されているのだ。
週末の競技会場となるカッレさんの会社の敷地にて。どこをサーチエリアにするか調査中!
ノーズワーク競技会を通じてみんなで楽しい時間をシェア!という精神
これら競技会のための準備・調査などは、関係者がボランティアでお手伝いするのがスウェーデンでは普通だそうだ。のみならずカッレさんの会社も競技会のために無償で施設を提供してくれている。全てはノーズワーク競技会を通じてみんなで楽しい時間をシェアしたいからだという。競技会関係者だけではなく、一般の人の協力と理解があって作られるのがノーズワーク競技会なのだな、という印象を強く受けた。
一方で日本の事情を考えてみた。カッレさんの会社はそもそも犬とは何の関係もない森林関係の会社だ。犬関連施設以外で犬を伴って利用させてもらえる施設探しに極めて難航する日本。
「こういう部分の意識からして違うんだな」
と思った。どれもこれも日本とは異なり、犬は屋外の土や草のところで排泄するもの、室内や予期せぬ場所で粗相しないことがスウェーデンでは当たり前となっているからかもしれない。
ノーズワーク競技会のために、倉庫などを持つ日本の会社もお休みの日には場所を提供してくだされば!と思う。なにしろノーズワーク競技では粗相をすれば(ポーズだけでも)即終了となるのがルールだ。だから排泄のコントロールさえ皆が徹底できるようになれば、施設をかしてあげてもいい、と言ってくれる方もでてくるのではないか。そうなるように、犬の飼い主さんおよび我々のようなトレーナーの立場の者がみなで、少しづつ現状を変えていけたらなと願ったのだ。
つづく
文:近藤奈緒子(こんどうなおこ)
ドッグトレーナー。SCENT LINE(セントライン)代表。2006年より東京を拠点に各地に赴き、出張トレーニング、シッター、ドッグウォーク等を行う。犬の持つ才能を活かしたいという思いから、2002年より嗅覚を使ったアクティビティや、家庭犬向けのドッグトレーニングを学び始め、2018年より北欧流ノーズワークに力を注ぎ、ノーズワークスポーツクラブ(JNWSC)の推進メンバーとして設立に携わる。愛犬は沖縄で保護された琉球犬Mix 名前はやんばる♀ 2014年11月生。http://www.scentline.jp/