文:尾形聡子
犬は人の感情状態を、表情や言葉のトーン、そしてにおいからもキャッチしていることが、近年の研究により示唆されています。とりわけ優れた嗅覚を備えた動物である犬は、人が目で世界を感知するように鼻で見ているという認識が少しずつ浸透してきています。
昔から、麻薬探知犬や爆発物探知犬、災害救助犬などとして、嗅覚を活かした仕事をする犬の存在がありました。けれども今やその仕事は広範におよび、膀胱がんなど各種がん探知犬、低血糖アラート犬、てんかんアラート犬など人の健康状態を感知する作業犬がたくさん出てきました。近年ではコロナウイルスの検出犬も同様です。
さらに犬は健康状態だけでなく、人の心理状態をにおいで感じていることも研究で証明され始めています。人はストレスを受けるとホルモンや神経系に変化が生じ、呼気や汗など皮膚から発せられる揮発性の有機化合物が変化するため、それを犬がキャッチすることができるからだと考えられています。
犬が人の健康状態をにおいで検出することについての研究は数々行われてきていますが、それに比べると心理状態のにおい検出に関しての研究はごくわずかです。これまでは、心理状態の変化に伴う揮発性有機化合物の検出よりも「あくびがうつる」などの感情の伝染や共感という観点から犬の社会的認知評価研究はされていました。たとえば犬と人の間での感情の伝染についての2019年の研究では、飼い主と犬の長期的なストレスレベルが同期していることが示されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
https://style.nikkei.com/article/DGXZQOUC263ZW0W1A021C2000000/
犬が人の心理状態をにおいで評価できることを示した研究としては「犬は人の感情を嗅ぎとり、その感情に影響されている」で紹介したものが挙げられます。そこでは犬は人の汗から恐怖のにおいを強く感じ取り、自身のストレス行動を増加させていたことが示されました。
これら二つの研究は「犬が人のストレスに関連して発するにおいを検出でき、それに影響を受ける」ことを示唆するものですが、人が平常状態のときとストレス下にあるときのにおいの違いを識別できるかどうかという、ある意味根本的な部分を証明する研究はまだまだ不足しているのが現状です。たとえば、