文と写真と動画:尾形聡子
スウェーデン紀行3回目は、滞在中に経験したフィールド・トライアルのためのグループ練習のお手伝いをして感じたことをお伝えしたい。
日本でフィールド・トライアルというドッグスポーツがどれだけの人に知られているものなのかはわからない。想像する限りでは、スウェーデンなどの狩猟生活が根付いた文化があるヨーロッパの国々に比べ、知名度はかなり低いように思う。私自身、名前こそ見聞きしてはいたものの、フィールド・トライアルの大会に居合わせた経験はもちろんなく、藤田りか子さんが犬曰くで発信する数々の記事を読んで、それがどういうものかを知った口だ。けれどそれは、単に文字を追うことで知ったというだけのこと。だから、実際に経験したことがない者には想像したくとも想像に及ばないことがたくさんある。
2日目の午前中、フィールド・トライアル競技の愛好家仲間と3人でグループ練習をするという藤田さんに同行し、いざ練習場所へ。そこは住所がないような森の中だった。仲間のひとりが「練習にぴったりのいい場所」を見つけてGoogleマップに星印をつけて教えてきてくれたのだという。右も左も木々に囲まれたその場所に到着するまでにはすっかり方向感覚を失ってしまうようなところだった。
練習場所に全員が集合すると、まずは練習のために森をどのように使うのか、という話し合いに入った。森の中をあちこち動き回りながらあれやこれやと検討を重ねる3人。丁寧にコースどりを考えているのが傍から見ていてもよくわかる。練習中に何をお手伝いしたかといえば、スタート地点から20メートルほど離れたところにダミーを持って待機し、犬の注意をひくように口から何らかの音を出しながらダミーをポイと投げること(非常にざっくりとした説明です)。時折コースに修正を入れながら、まずは各人の若犬たちが練習開始。ひとしきり練習が終わってからはベテランの犬たちが出てきて練習を。そう、3人ともフィールド・トライアル競技の練習を積んでいる犬が2頭ずついたのだ。
練習中、合計6頭の犬たち、そしてハンドラー3人の様子をしげしげと観察することができたのだが、そのこと自体がまずとても面白かった。当たり前ではあるけれど、同じことをやるにしてもその人らしさというものがある。同じハンドラーでもペアを組む犬の熟練度によって異なり、臨機応変に対応しているのも見てとれた。それぞれに工夫しているのがよくわかるし、なにより人も違えば犬も違う。見ていてまったく飽きることがなかった。
大自然の中での練習の一場面。かなり遠くにあるダミーをよく見つられるなあとひたすら感心。
グループ練習というのもやはりいいものだ。個人練習だけを続けているより、目標をともにする仲間と一緒に練習をすれば、学習効果は2倍にも3倍にもなること請け合いだ。いい刺激を受けるし、客観的な意見をもらうこともできる。人だけでなく、犬自身にとってもプラスになるところがあると思う。そうやってお互いに切磋琢磨して、競技会に向けて努力を重ねていくというのは素晴らしい関係だと感じた。
今回の練習の手伝いを通じて思ったのは、練習しないでうまくなろうなんて、そうは問屋が卸さないということ。上を目指すにはたゆまぬ努力が必要。これはどんなドッグスポーツにも言えるはずだ。そして、ほんの少しではあるけれど、フィールド・トライアルの競技に必要とされるものを実際の練習を見て感じ取ることができた。百聞は一見にしかず、なのである。
とにかく「いいなあ」と思ったのは、同じように真剣に練習に取り組む仲間がいるということだ。練習後のフィーカタイムではおしゃべりが止まらない3人組。スウェーデン語はまったくわからないけれど、楽しい時間になっていることは明らかだった。練習に関することだけでなく、犬に関するあれこれを心置きなく話せる場があるのも、ドッグスポーツを続けていく上で大事な要素ではないかと感じた。マニアック全開、好奇心全開でひたすら好きな話ができることは、モチベーションを維持していくのにプラスに働くかもしれない。特に、おしゃべり好きな女性にとっては。
全然違うことだけれど、ゆるゆると趣味でバンドを続けている私にとっても、マニアックな音楽話をできる場があるのは、音楽そのものをする以外にとても楽しいし嬉しいと感じている。オタク全開で遠慮なく話ができる幸せは何ものにも代え難い。でも、マニアックな犬話ができる場は、ここ日本の日常の中ではまだまだ限られていると感じてしまう。そういう意味でも、何かしらドッグスポーツに挑戦すると、そういう仲間を得やすいのかもしれない。真剣に練習をして、練習後にはおしゃべりが止まらない3人の姿を見て、次なる犬を迎えるときにはやはりドッグスポーツを、と心に誓った次第だ。
ドッグスポーツをやらなくても仲間がいることで達成しやすいことはほかにもある。愛犬の体重を落としたい、と思っている方はこちらの記事を是非ご覧あれ。
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