ワケありの短足犬種たち

文:藤田りか子

[Photo by Les Howard]

短足にはふか~いワケがある。短い脚で重宝した。短い脚を活かせた。それで短足犬が世に登場した、と考えると犬種学的には正しい。ショードッグとして見た目にも面白いからと、極端な短足化への道を歩んだ犬種もいる。けれど多くは狩猟あるいは酪農世界で活躍していた由来を持つ。

狩猟の世界に起源を持つ短足犬

狩猟で活躍した短足犬の起源は多様だ。いろいろな国でいろいろな背景によって作られた。ダックスフンドはご存知ドイツや北ヨーロッパのアナグマ狩りの犬。脚が短いおかげでアナグマの巣穴に入れるから、アナグマ犬(ダックス=アナグマ)と名付けられた。ドイツではキツネ狩りにも盛んに使われており、地上の猟師に撃たせるよう、巣穴に逃げ隠れたキツネをけしかけて出す。

巣穴にもぐる狩猟犬はドイツではダックスだが、イギリスなら小型か短足のテリア種がそれに取って代わる。シーリアム・テリアやワイヤード・ダックスフンドの復元に貢献したダンディ・ディンモント・テリアの長い胴体と短い脚を見れば一目瞭然だ。

ダンディ・ディンモント・テリア。 [Photo by Svenska Mässan]

脚の長さによる分化といえば、フランスやドイツ、スイスの狩猟犬種の中にも見られる。たとえばフランスのバセット種には、かならずそれに相当する脚長種がいる。バセット・フォーブ・ド・ブレターニュという短足犬はグリフォン・フォーブ・ド・ブレターニュという体高50㎝の脚長犬を元に作られ、脚の長さ以外は、よく似ている。ただし、フランスの短足犬はダックスのように穴に入るための短い脚を持つのではなく、狩猟の際に人間が犬のスピードに追いつけるように。脚長ハウンドたちは、馬に乗ったハンターといっしょに狩りをするが、短足ハウンドは徒歩で行く人間と狩りをする。

ドイツやスイス、北欧でも近代化によって、短足のハウンド犬種がたくさん生み出された。昔のように貴族が大きな領地を所有することはなくなり、代わりに土地は細かく区画化された。即ち個人の狩猟領地の面積が小さくなってしまったのだ。そのために狩猟権が異なる隣の領地に獲物を簡単に逃がしてしまうリスクが増えた。何としても自分の土地内で仕留めるには、ゆっくりと追い立てる短足犬が必要になる。そうした背景で生まれてきた犬に、スウェーデンのドレーベル(写真下)等がいる。ドレーベルの狩猟についてはこちらの記事「猟犬だって家庭犬!我が友人のスウェーデン紀行」も参考に!

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ドレーベル。 [Photo by Ángel Gil Criado]

倫理的理由によっても、これら短足猟犬は今も大活躍している。北ヨーロッパの多くの国では、体高40㎝以上の猟犬を鹿狩りにつかってはいけないという法律がある。脚が長い犬を使うと追うテンポが速すぎて、鹿をパニック状態に陥れるからだ。

ハウンド猟犬のみならず、スパニエルの中にも短足犬がいる。サセックス・スパニエルが短足になったのは、猟場の状況による。藪が深く生い茂るサセックス州の猟場は見晴らしが悪い。脚の早い犬に追わせると、獲物も犬も見失いやすい。そこで常にハンターの側で猟をさせようと、短足スパニエルを作り上げたのだ。

サセックス・スパニエル。 [Photo byGareth Byrd]

短足で対応、牛追い犬

酪農の世界の短足犬は皆牛追い犬だ。牛追い犬になるには、いくつかの条件がある。羊と違って、牛は図太いので、犬にオシの強さが必要だ。その時に犬はたいてい牛の踵を噛んで急かすものだ。と、犬には脚蹴りをくらう危険が付いて回る。それを対処するのに、牛追い犬種は二つのストラテジーをつかっている。一つは脚蹴りをかわすためにすばしっこく動く能力を身に付ける。もう一つは体高を低くして脚蹴りが命中しないようにすること。後者の戦法を身につけた犬が即ちイギリスのコーギーといった短足酪農犬種なのだ。スウェーデンにもヴァルフンドというコーギーとよく似た牛追い犬がいる。

スウィディッシュ・ヴァルフンド。 [Photo by ksilvennoinen]

犬種の体型をもとにブリーディングする際は決して極端にある特徴を強調してはいけない。以上見てきたように、たとえ短足といえども皆作業をこなしてきた犬たちである。極端な体型をもっていればまず健全性が損なわれ、作業をするどころではなくなる。何事もバランスを大切に…。