文:尾形聡子
[Photo by Chris Arthur-Collins on Unsplash]
声とは口から発せられる音のこと。会話をするためだけでなく、社会的な相互作用をするときに個人を認識するための聴覚的な手がかりになっています。人の持つ声の聞き分け能力は幼少期からみられますが、母親の声にいたってはそれよりも早く、胎児や新生児でも反応できることが知られています。そして成長していけば、聞き覚えのある声を長期間にわたって覚えていることもできます。外からの刺激を処理するにあたり、視覚に大きく頼る人でも、声は個人を識別するために大きな役割を果たしているのです。
そもそも声とは、周波数の違ういくつかの音波が重なりあって作られているもので、それぞれの音波の周波数がどのように出ているかというバランスの違いが声色の違いをつくります。その違いを「その人の声」として私たちは認識しています。人の場合は主に、音の高低(振動数であるピッチ(基本周波数)と声道の長さが影響する高低(フォルマント周波数))と、ノイズ(ハスキーボイスかクリアボイス)の特性を個人識別する際に使っています。そのほかにも個人の声の違いをつくりだしているものには、声の大きや強さ、発声や発音の違いなどがあります。
嗅覚の世界に生きる犬においても、個体を識別するためのひとつとして声は重要だと考えられています。そしてそれは犬同士に限ったことではなく、特定の人間、すなわち一番身近な飼い主を識別するためにも大切です。人の声にも強く反応するようになった犬は、実際に、女性と男性の声の聞き分けができたり、飼い主と同性の人の声と飼い主の声と区別できたり、飼い主の声と顔を意一致させられることがこれまでの研究で示されています。
皆さんも経験上よく知っていることと思いますが、このように、犬は人の声色を聞き分けられることはわかっています。しかし、飼い主の声を識別するために人と同じ音の手がかりを用いているかどうかについては不明なままです。
そこで、