文:尾形聡子
[photo by Donnie Ray Jones]
犬は子どもに数々のいい影響を及ぼすことが明らかにされている一方で、子どもを咬んでしまうことも多く、世界的に問題とされて久しい状態が続いています。特に、皮膚が柔らかく身長の低い子どもは、大人と比べて重傷を負いやすく、時に死亡事故に繋がってしまうこともあります。
各国で起こる犬の咬傷事故の多くは自宅で発生していて、子どもにいたっては8割近くにもなるとの報告があります。子どもは慣れ親しんだ犬ならばと、やたらと触ったりちょっかいを出したり、嫌がる犬のボディランゲージを読めなかったりするために、家庭内で咬まれることが多いと考えられます。子どもだけでなく親においても、家庭の犬より見知らぬ犬の方が子どもにとって危険だという意識が働いていることが、子どもの家庭での咬傷事故が後を絶たない理由のひとつとなっていることが研究により示されています。
このような状況があるにもかかわらず、咬傷事故を予防する対策として行政が一般的に行なっているのは、公共の場でリードを装着するなどする事故防止にとどまり、子どもや保護者に対する教育とその長期的な観察研究が不足しているのが現状です。
犬の咬傷事故がどのような理由でどのようにして発生するのかについての理解を深めることが、事故を予防する上で極めて重要だと考えたオーストリアのグラーツ医科大学の小児外科医の研究チームは、2005年、16歳以下の子どもにおける犬の咬傷事故についての調査結果を発表しました。それによれば、年間発生率は1,000人あたり0.5人、1歳の子どもで最も発生率が高く、年齢が上がるにつれて減少していました。また、咬んだ犬の82%は子どもにとって馴染みのある犬でした。
研究者らはこの結果を受け、咬傷事故発生率と重傷度を低くするためには市民の意識を高めるための地域的介入が必要だと考え、2008年、小学生を対象に犬に襲われないようにする方法や襲われた場合の対処方法を教える子ども安全プログラムを開始しました。そして、