補助犬およびサービスアニマル(情緒障害サポート犬)の救急搬送について

文:サニーカミヤ


(出典:JEMS

地元のショッピングモールからの要請を受けて駆け付けた消防隊と救急隊は、胸の痛みを訴えて苦しんでいる38歳の女性ナンシーさんを発見。ナンシーさんは犬と一緒に歩道にあるバス停の椅子に座っています。

周りの人が言うには、最初バスに乗り遅れてがっかりしていたかのように見えたそうです。ところが数分後に彼女は気分の悪さを訴えました。

ナンシーさんは目に見えて動揺しているようですが、質問には適切に答えることができています。彼女の心拍数は96としっかりと規則正しく、モニターの洞調律に一致し、血圧は156/88、呼吸数は28、呼吸困難には陥っていません。

彼女のその他のバイタルサイン(生命の兆候)とフィジカルアセスメント(問診・視診・触診・打診・聴診などの身体評価)は、通常の範囲内です。彼女は時折パニック発作を起こすことを除いては、特に医療上の問題はないと言っています。ナンシーさんは病院への搬送を希望しており、ここから20分離れた病院への搬送に同意していますが、彼女と一緒にいる犬を同伴することを強く望みました。

彼女は、この犬が情緒障害をサポートする補助犬であることを伝え、またこの犬がアメリカ補助犬協会によって認定された犬であることを示す公式文書のように見える書類を見せてくれています。

患者を支える動物たち

患者の多くは、複雑な治療プランによって情緒的にも身体的にもかなり衰弱した状態にあります。幸いなことに、何千人ものナンシーさんのような患者たちは、さまざまなサポートアニマルの支えによってより快適に生活できるようになり、救急隊員がナンシーさんのようなケースに直面することが一般的になってきています。

革の握り手の付いたハーネスを着けた盲導犬が、街中で視覚障害者を先導し、通行の障害やその他多くの日常的な障害物を避けて安全に導いている光景は見慣れたものになってきています。

こうした人間と犬のパートナーシップは、もはや視覚障害者や車椅子での生活を強いられている人に限定されるものではありません。現在、他の多くの症状を抱える患者たちが、専門的な補助を受けることが可能になってきています。

さまざまな動物、主に犬が、防御や感知といった多くの新たな分野で訓練を受けています。例えば、犬は驚くべき感覚を持っているので、人間のパートナーに発作が起こりつつあることを警告するように訓練することができます(注1)。このパートナーシップは非常に重要で効果的であるため、犬が常に人間のパートナーのそばにいる必要があります。これら犬たちは補助犬とも呼ばれています。


救急医療の救助隊員は、患者の犬を正規のサービスアニマルとして受け入れる前に、その犬が訓練を受けているか、認定されているのかまたはライセンスがあるのかを示す書類の提示を求めることはできず、サービスアニマルが胴着またはその他の識別できるものを着用している必要もない。(出典:JEMS

補助犬は、身体的症状を補助するだけでなく、しばしば情緒障害サポートも行います。

男女を問わず兵士たちは戦争から、警察官、消防士、救急隊員はわれわれの暮らす国内でまさに起こっている暴力行為の現場から、さまざまな程度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えて家に帰ってきます(注2)。こうした多くの人々が愛情あふれる補助犬に支えられて、効果的なサポートと治療を受けているのです。

これらの補助犬は、特定の任務を実行するように訓練されています。例えば、PTSDに苦しむ退役軍人に発作が起こったことを感知した補助犬は、その人の膝の上に足を乗せます。補助犬にこうした特別なタスクトレーニングが行われていることは、病院への搬送前の対応において救急隊員や救急救命士にも求められる障害を持つアメリカ人法(ADA)の定める要件により周知されています。

連邦および州のサービスアニマル(補助動物)規則は、曖昧に書かれている場合がよくあります。その結果、ペットとして飼っている犬は補助犬であり、自分は障害者であると偽る人が出てきてしまっています。これは残念なことですが、プロとして相手を脅かさない程度に対応しなければならないのが現実です。

障害を持つアメリカ人法(ADA)はサービスアニマルであるかどうかを判断するための一連のガイドラインを定めています(注3)。誰も、障害のある人が補助犬を同伴する機会を奪いたいはずがありません。

残念ながら、多くの人々(そして時には私たちの患者でさえも)が、自分のペットを店やホテルに同伴したいがために、この貴重な人間と動物のパートナーシップを乱用しています。

手数料さえ支払えば公式文書のように見える証明書、身分証明書、また犬の首輪に着けるタグを手に入れることができる、信頼性の明らかでないオンラインショップが多数あります。ADAはこの種のプログラムを認めておらず、これらの証明書がサービスアニマルの書類として何ら意味もなさないことは明らかです。

ここでさらに難しいのは、ADAの要件を把握して、それが本当に正規のパートナーシップなのか、またこの制度の抜け穴を利用したものではないのかを判断し、それぞれの状況を見極めることです。


サービスアニマルは、身体的症状を補助するだけでなく、しばしば情緒障害サポートも提供する。(出典:JEMS

規則と責任

米国司法省は、2010年9月15日にADA規則の改訂を公表し、州政府および地方自治体サービスと公共施設、商業施設の両方に求められる事項を明らかにしました。救急医療機関は、次の3つの重要な規定を認識しておく必要があります。

  1.  2011年3月15日より、犬のみがサービスアニマルとして認められます
  2. サービスアニマルとは、障害を持つ人のために働き、任務を果たす訓練を個別に受けた犬のことです
  3. 一般的に、組織・団体(病院への搬送前の救急隊を含む)は、一般の人の出入りが許されている全ての場所において、サービスアニマルの同伴を認めることが義務付けられています(注3)

サービスアニマルとは、障害のある人のために働き、任務を果たす訓練を個別に受けた犬として定義づけされています。サービスアニマルは働く動物であってペットではありません。トレーニングを受けた仕事や任務は、その人の障害に直接関わるものでなくてはなりません。

この種の仕事や任務の例としては、視覚障害者の誘導、聴覚障害者への警告、車いすのけん引、発作を起こしている人への注意喚起と保護、精神疾患のある人に処方された薬の服用を促すこと、不安状態に陥ったPTSDの人を落ち着かせること、またこれら以外にも重要な任務の遂行が挙げられます(注3)

重要なことは犬またはその他の動物の役割が慰め、セラピーまたは情緒障害サポートに限られる場合、ADAではサービスアニマルには認定されないことに注意することです。これらの動物は特定の仕事や任務を実行するようには訓練されていないため、ADAのサービスアニマルとしての資格はないのです(注3)

救急車で搬送される患者に情緒障害サポート犬の同伴を許可することは、連邦法的には義務ではありません。しかし、一部の州や地方自治体においては情緒障害サポートアニマルを公共の場に同伴することを許可する法律があり、それらの法律は、救急搬送にも適用される場合があります。

事業所で定められているポリシーや手順には常に従う必要がありますが、総体的な状況や可能な選択肢を考慮して、情緒障害サポート犬を乗せるよう試みることがベストな実践といえるでしょう。

患者が犬を同伴することを許可する決定は、最終的には救急隊員に委ねられており、患者が犬を必要としているか、患者が動物をコントロールすることができるか、および救急隊員が犬を安全に運ぶことができるかどうかに基づいて決定されます。

搬送時の注意事項

店舗、レストラン、公共の場所、ホテル、さらには航空会社に対するADA要件は、救急車の要件とは異なります。ADAによると、公的サービスを提供する州および地方自治体、企業や非営利団体は、通常、一般の人々の立ち入りが許可されている施設の全ての場において、サービスアニマルが障害のある人に同伴することを許可する必要があります。

店舗、レストラン、公共の場、ホテル、さらには航空会社においては、サービスアニマル/情緒障害サポートアニマルをより広義に解釈するよう求められています。救急車は補助犬のみを乗せることが求められており、それ以外の全ての動物に関しては、救急隊員は合法的に乗車を拒否することができます。

犬がどのような補助の役割を果たしているのかが不明な場合は、限られた質問だけが許されています。救急隊員は次の2つの質問をすることができます。

  1. 犬は障害のために必要なサービスアニマルかどうか?
  2. 犬が訓練された仕事や任務は何であるか?(注4)

救急隊員は、その人にどのような障害があるのかを尋ねたり、医療記録の提示を求めたり、犬が仕事や任務を実行する能力を示すよう頼んだりすることはできません。救助隊員は、犬を正規のサービスアニマルとして受け入れる前に、訓練を受け、認定され、またはライセンスを習得したことを証明する文書を要求することはできません。サービスアニマルは、サービスアニマルであることを示す胴着やその他の識別できるものを着用している必要もありません。

病院への搬送前の救急隊員は、次の3つの主な理由のいずれかによってサービスアニマルの輸送を拒否することができます。

  1. 補助犬が救急隊員の救命ケアを提供する能力を「根本的に変えてしまう」場合
  2. 犬がコントロール不能であり、持ち主が犬を効果的にコントロールできない場合
  3. 犬が排泄のしつけをされていない場合(注3)

患者は常に補助犬をコントロールするよう求められます。つまり、サービスアニマルの働きを妨げる場合、あるいは個人の障害により装着させられない場合を除き、補助犬はハーネスをはめ、ひもや鎖でつながれていなければなりません。もしつなげない場合は、個人は声、合図またはその他の効果的な方法を用いて動物を制御する必要があります。

患者が意識不明の場合、または重大な救命処置を必要とする状態にあり、犬の存在が搬送中のケアまたは安全性を損なう場合は、犬は別の方法で運ぶ手配をした方がよいでしょう。

ADAは、アレルギー、個人的な偏見、恐怖など、上記以外の理由で補助犬の同伴を拒否することを許可していないことに注意してください(注3)。ADAは補助犬が共に搬送されない場合に、誰が犬の面倒を見るのかを明確にしていませんが、搬送前の救急隊員が、患者と犬ができるだけ早く再会できるようにあらゆる努力をすることを奨励しています(例えば、家族や友人の車、警察車両などを使って)。

バランスのあるケアと法的必要条件

全ての公共または民間の救急医療システムは、救急隊員が遭遇する可能性のある補助犬とされる犬や他の情緒障害サポートアニマルを迅速に見極めるために役立つガイドラインや、状況に応じた選択肢を作っておく必要があります。

ADAは、補助犬として受け入れるべきものを定義し、その決定を行う際の許容の限度、またどういった場合に飼い主と一緒に補助犬を搬送することを拒否できるのかを明確にしています。

これらのADA要件は、従うか否かを選べる提案ではなく、法的拘束力があり、治療プランの全体に含まれていなければなりません。

救急隊員が患者と共に補助犬を搬送しないと決めた場合、二つの顕著な問題が生じる可能性があります。

  1. 患者が心の安定を保つことができなくなり、さらなる不安を招くことになります
  2. 適法な障害者への便宜を拒否すると、法的影響を受ける可能性があります

確かに患者の搬送中の情緒障害サポートアニマル(つまり、ADAの補助犬の定義に合わない動物)の役割を考えると、単に「ダメです」と言うことは合法ですが、総合的に見てそれが患者にとって最良の選択肢である場合はどうでしょう。

●次のように考えてみてください

もし、それがあなたの母親や父親、兄弟姉妹だとしたら、患者がさらなる情緒的なサポートを得るために必要な便宜を図ろうとはしませんか? また、ニュースメディアがあなたのやり取りを撮影していた場合、あなたの決定が一般の人にどのように受け止められるか気になりませんか? 過ぎたことをとやかく言う世論が、あなたのとった行為が妥当だったというでしょうか?

全ての患者をあなたの家族の一員であると思って対応するなら、動物を一緒に搬送できるようにする打開策を考えてみてはどうでしょうか。もちろん、安全に搬送できると思われる場合においてではありますが。

ただもし動物を同伴させるために欺かれだまされていると感じたり、患者の情緒障害や情緒の安定に効果が認められないと思ったりしたときには、「同伴はできません」と伝えてよいと思います。

何かを決定する際は、それが事業所の方針に沿っていることを確認しましょう。指揮系統だけでなく受け入れ病院にも注意を払い、指示に従いましょう。そして、動物の存在、患者と一緒に搬送することを許可したかどうか、その決断に至った根拠を必ず記録に残しておいてください。将来、問いただされたり、告発されたりした際に、これが大いに役立ちます。

結論

救急隊員がナンシーさんを病院に運ぶ準備をしているときに、彼らは彼女の犬をどうするか決断を迫られたこと。

犬がADAの特定のサービスアニマルの基準を満たしていないことは明らかなので、救急隊員は犬を救急車に乗せナンシーさんに同行することを法的に拒否することもできます。しかし、ナンシーさんとの短いやり取りの中で、ナンシーさんと犬との間に特別な絆があることが分かり、ナンシーさんと犬を一緒に運ぶことが最善であると判断しました。

救急隊本部の方針では、安全に遂行できる限り、患者のケアにとってサービスアニマルを一緒に運ぶことが最善であるかどうかの判断を救急隊員に委ねています。

救急隊員は自らの決定を記録し、犬がナンシーさんに情緒の安定をもたらしていることを書き留めています。彼らはまた、彼女のペットが明らかにナンシーさんの指示に従うよく訓練された従順な犬であることを記録しています。

搬送中、犬はナンシーさんの横に座っており、ナンシーさんは犬を見たり、触れたりすることができます。ナンシーさんと彼女の犬との心の絆は、ストレスのない搬送を可能にし、救急隊員が経過観察を行う際にも犬が邪魔になることはありません。救急隊は情緒障害補助犬がケアプランの一部であったことを伝え、また病院に着いてからもサポートしてもらえるよう受け入れ病院に連絡を入れます。

なお、大手航空会社や公共交通機関によっては、情緒障害者補助犬がさまざまな公的な移動手段を利用できるように、下記のようなフォームを作って、他の利用者への理解と社会的なバランスを取っています。

このような取り組みは、さまざまな情緒障害のある方々、発達障害者の方々が情緒障害者補助犬と共に社会的に平等なスタンスで、生活と健康を守りながら、日常生活を送ることや、災害時には一緒に公共の避難所等に避難することを可能にします。災害弱者を減らすためにも日本でも取り入れられるべきだと思いますが、いかがでしょうか?

感情支援動物/精神的補助動物リクエスト(PDF)
https://petsaver.jp/PDF/ELSA.pdf

下記のワードファイルは、施設事情などに応じて、自由に編集してお使いいただけます。

感情支援動物/精神的補助動物リクエスト(Word)
https://petsaver.jp/docx/ELSA.docx

謝辞
この記事の写真に表示されている犬は、「Arizona Power Paws」によって提供された糖尿病警報犬モリーといいます。Arizona Power Pawsは障害のある子どもや大人に高度に熟練した援助犬を提供する非営利団体で、教育および援助犬チームの働きに対して継続的な支援を提供しています。オンラインでhttps://azpowerpaws.org/を検索してみてください。

参照
注1)Seizure dogs. (n.d.) Epilepsy Foundation.[発作性疾患の人々に警告するか、または助けることができる犬、てんかん団体]https://www.epilepsy.com/learn/seizure-first-aid-and-safety/seizure-dogs(2017年5月19日閲覧)

注2)Krause-Parello CA, Sarni S, Padden E. Military veterans and canine assistance for post-traumatic stress disorder: A narrative review of the literature. Nurse Educ Today. 2016;47:43-50.[Krause-Parello CA, Sarni S, Padden E.共著「退役軍人と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人のための犬による補助:文献のナラティブレビュー」『今日の看護師教育』2016版47:43-50.]

注3)ADA requirements: Service animals. (July 12, 2011.) U.S. Department of Justice Civil Rights Division: Information and Technical Assistance on the Americans with Disabilities Act. [ADAの要件:サービスアニマル(2011年7月12日)米国司法省公民権課:障害を持つアメリカ人法に関する情報と技術支援]https://www.ada.gov/service_animals_2010.htm(2017年5月19日閲覧)

注4)Frequently asked questions about service animals and the ADA. (July 20, 2015.) U.S.  
Department of Justice Civil Rights Division: Information and Technical Assistance on the Americans with Disabilities Act.[サービスアニマルとADAに関してよく寄せられる質問(2015年7月20日)米国司法省公民権課:障害を持つアメリカ人法に関する情報と技術支援]https://www.ada.gov/regs2010/service_animal_qa.html(2017年5月19日閲覧)
 

【参考サイト】

JEMS

EMS Transport of Service Dogs & Support Animals - JEMS: EMS, Emergency Medical Services - Training, Paramedic, EMT News
Learn the requirements and best practices for transporting a patient's service animal.

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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