文:尾形聡子
[photo by Lazurite]
人類史上初の家畜動物、犬。家畜化の始まりは人類が狩猟採集をしていたころ、少なくとも15,000年前またはそれ以前のことといわれています。遺伝学的な研究では、約27,000〜40,000年前に存在していたオオカミから分岐した子孫であることが示されていますが、犬の家畜化はひとところから始まったのではなく、ユーラシア大陸において近い時期に多発的に起きたという複雑なプロセスがあるのではないかと考えられています。
これまで、犬の家畜化を促進したことに、人を怖がらないオオカミが人の残飯をあさったりもらったりしつつ他の野生動物などから人を守ってくれるのに役立ったから、狩猟のパートナーとして役立ったから、などという要因が考えられていますが、その頃のオオカミと人は生態学的に見れば対象とする獲物が同じ、つまり競争相手という立場でした。なぜ、そのようなニッチ(生態的地位)を同じくする動物が、お互いに利益を得るような形で家畜化の道を歩むことになったのか、それらの要因だけでは家畜化のきっかけのすべてを説明できずにいましたが、ここにきて非常に興味深い新説が登場しました。
『Scientific Reports』に発表された犬の家畜化の新説の筆頭著者は、フィンランド食品安全局そしてヘルシンキ大学のフィンランド自然史博物館の研究者であるMaria Lahtinen氏。彼女はその所属からも、そもそもは最終氷期における北極圏や北極圏に近いユーラシア地域の狩猟採集民の食生活の研究を行なっており、犬の家畜化の謎に迫るのを目標としていたわけではなかったそうです。しかし