オス犬の排尿時の姿勢といえば片脚上げ。メジャーなのは右脚それとも左脚?

文:尾形聡子


[photo by Michael Coghlan]

オス犬のオシッコ姿勢といえば?

誰もが片脚を上げて揚々と放尿している姿を思い浮かべるものです。実際に街中でみるだけでなく、片脚を上げてオス犬が電柱にオシッコをしている姿は、漫画やアニメの中でもよく描かれているシーンです。

しかし皆さんもご存知のように、オス犬が片脚を上げてオシッコをするのは生まれてすぐにというわけではありません。子犬のうちはオス犬も脚を上げずにオシッコをします。つまり、オス犬は成長と共に片脚を上げてオシッコをする割合が高くなっていくものなのですが、それはいわゆる「マーキング」で、犬が本能的にとる行動のひとつです。マーキングをすることで自分の足跡をその場所に残し、ほかの犬とコミュニケーションをはかっています。片脚を上げなくともメス犬も「マーキング」のオシッコをするのですが、脚を上げる動作はせず、回数も圧倒的に少ないため、オスにマーキングの印象を強く抱くものです。

数年前、アメリカのコーネル大学の研究者が、小さなオス犬ほど体の割合的に高い位置にマーキングをしているという研究結果を発表したという記事を目にした方もいることでしょう。このような研究もあれば、人でいうところの右利き、左利きの研究を犬や猫で行っている人もいて、2019年に発表された論文では、犬の68%に利き手(前脚)があり、それ以外はいわゆる両利きだったことが示されています。

犬もウソをつく! 高い位置にマーキングして体を大きく見せたがるらしい
小さな犬ほど、お散歩で高い位置めがけてマーキングするそうです。え、なんですかその可愛い誇張は。

これは脳機能の左右差を知るための研究でもあり、二足歩行の人間はついつい手に着眼しがちなのですが、最近では人でも利き手から利き足について調べる研究に及んでいるようです。そして、犬においても後ろの利き脚を排尿スタイルから探る研究がわずかながら行われています。McGuireらによる2017年の研究では、犬の50%が両利き脚(両方の脚を同じ程度で上げる)、約20%が右脚上げ優先、約30%が左脚上げ優先だという結果が示されています。ちなみにMcGuire氏はアメリカのコーネル大学で犬の行動学の研究をしている先生で、前述した小さな犬ほど高い位置にオシッコをひっかける傾向にあるという研究ももれなく彼女が主導。最近の犬のマーキング行動に関する研究のほとんどが彼女のものともいえます。

そんなMcGuire氏が研究対象としているのは基本的にシェルターにいる犬たち。では家庭犬ではどのようになるのでしょう?そこでイギリスの獣医療診断を行う会社に所属するひとりの研究員は、SNS(Facebook、Reddit)を使って世界中のオス犬の飼い主に向けてオンライン調査を行いました。『Journal of Veterinary Behavior』に発表したその結果を紹介してみたいと思います。


[photo by Glen Bowman]

上げるとしたら右脚?それとも左脚?

質問内容は、去勢の有無、年齢、どちらの脚をどのくらいの頻度で上げてオシッコをするか、どの地域に住んでいるかという4問。1週間ほどで集まった120の回答の統計がとられました。以下、論文を元にデータをグラフにしてみました。

去勢の有無:去勢済み91頭、未去勢29頭。

年齢: 1歳より上〜2歳が29頭、2歳より上から5歳までが28頭、5歳より上から9歳までが27頭、9歳より上が36頭。それぞれの年齢カテゴリーにおいて約75%の犬が去勢済み。

排尿時のポーズ

  • 脚を上げない36頭:未去勢3頭、去勢済み33頭で有意差あり
  • 好みなし20頭:未去勢6頭、去勢済み14頭で有意差なし
  • 左脚上げ21頭(いつも5頭、たいてい16頭):未去勢6頭、去勢済み15頭で有意差なし
  • 右脚上げ43頭(いつも17頭、たいてい26頭):未去勢14頭、去勢済み29頭で有意差なし

右脚上げを好む犬は左脚と比較して有意差があり(頭数的には2倍)、去勢は脚上げそのものと負の相関がある(去勢すると脚を上げなくなる傾向がある)。

住んでいる地域:脚を上げる犬の左右の好みは、南半球と北半球とで有意差は見られなかった。

  • 南半球:オーストラリア/ニュージーランド(29頭が左右いずれかの好みあり)
  • 北半球:ヨーロッパ/イギリス、アジア、北米(90頭が左右いずれかの好みあり)
    (除外:その他の地域1頭)

ちなみに、各年齢グループにおける脚上げの好みをグラフ化したものはこちらになります。

観察してみると案外面白いかも!

皆さんはこの結果にどう思われましたか?確かに、去勢済みの犬の方が脚を上げない傾向にあるというのは想像通りの結果ではなかったでしょうか。また、全体からすれば好みの上げ脚がある犬の方が好みがない犬より多いというのは、後脚であっても前脚と同様に「こっちのほうがやりやすい」と感じている犬が多いことを示唆する結果です。

ただし、そこには人の左右どちらかにつけて歩いている場合には、位置的にやりやすい方向というのもあるかもしれないと感じます。犬がフリーで動いているときにオシッコをするならば、それがその犬にとっての「上げやすい脚」としてより正確に観察できることでしょう。

人の場合では、利き手と利き足との関係や社会的要因から受ける影響、神経発達の有病率との関連などを見ているようですが、もしかしたら犬も神経発達におけるなんらかの影響を示しているかもしれません。

いずれにしても、このような研究が出ると思うのは、自分の犬はどうだろう?他の犬はどうだろう?と、これをきっかけに犬を観察するチャンネルがひとつ増えることだと思います。オス犬の飼い主の皆さん、愛犬の上げる脚の好みはすぐに答えられますか?

【参考文献】

Male dog urination posture preference: A survey of owner observations. Journal of Veterinary Behavior. Volume 39, September–October 2020, Pages 37-40

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