文:尾形聡子
[photo by Rikako Fujita]
犬において犬種特異的に発症する遺伝病が多いのは、人為選択による繁殖と犬種の特性(スタンダード)維持のために個体間での遺伝子が似通っていることが大きな原因です。自然界ならばゆくゆくは淘汰されていくような遺伝子変異が犬種内で急激に広まり、本来なら出会う可能性の低い遺伝子変異同士が狭い遺伝子プールであるがゆえに出会う可能性が高まっていくため、遺伝的な病気を発症しやすい状態におかれているといえます。しかしその一方で、遺伝子変異の広がりこそがその犬種たりうる特性を作りだしているという側面もあります。
犬の遺伝病と人の遺伝病は類似しているものが多々あり、その中にはいくつもの難病が存在しています。たとえば犬の変性性脊髄症(DM)と人の筋萎縮性側索硬化症(ALS)は発症原因となる遺伝子変異が共通していることから、DMの研究が人のALS研究にもつなげていけることが期待されています。犬における病気の原因・発症メカニズム解明のための研究が人の病気において役立てられていくこともあれば、その逆もあるということです。
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/field/36_kamishina.html
遺伝性であり、かつ、命にかかわってくる重篤な病気として、以前ダルメシアンの急性呼吸窮迫症候群(ARDS)について紹介しました。急性呼吸窮迫症候群は肺炎、敗血症や外傷などのさまざまな疾患が原因となり急性に重度の呼吸不全をきたす病気です。
そして肺炎といえば、新型コロナウイルスのパンデミックにより一気に身近な病気となってしまいました。新型コロナウイルスによる肺炎は当然のことながら遺伝性ではなくウイルスが原因となっていますが、一方で遺伝性の肺炎は犬にも人にも発症することが知られています。
エアデール・テリアにおいてはこれまでに、生まれたての子犬に致命的な遺伝性の肺炎が見られることが知られていたのですが、最近その原因となる