文:尾形聡子
[photo by Maja Dumat]
オスとメス、二つの性がある生物の多くのその数は、だいたい半数ずつになっています。人も例にもれず、世界全体では多少男性の方が多いものの男女比はおおよそ1:1の割合で推移してきています。
なぜ性比(オスとメスの数の比のこと)が半数ずつに落ち着くのか?について説明する理論として、イギリスの集団遺伝学者であるロナルド・フィッシャーが1930年に発表した「フィッシャーの原理」が有名です。人を含む多くの生物は、性比が1:1のときにもっともその種の生存が安定するためだという考えです(フィッシャーの原理について詳しくはリンク先のwikiの説明をご覧ください)。また、大事なのが「親の出費」とよばれる概念で、wikiにはそれを「進化的に安定な状態となるのは、子の数の性比が1:1の時ではなく、親がオスの子とメスの子へ振り分ける総出費の比が1:1になるときである」と説明されています。
性比の研究は自然界の生物がどのような戦略をもって種を存続させているかを知るひとつの手段として、主に野生動物を対象に行われてきました。一方で、家畜化された動物についての研究は決して多くなく、犬に関する性比の研究は数えるほどしかありません。最近では2008年に、スウェーデン原産のセントハウンド「ドレーベル」について調べられた研究がありました。その研究では、犬の性比とメス犬の年齢を含むいくつかの生殖形質との間に相関はみられなかったという結果がでています。しかし、1987年と古い研究になりますが、そこでは生まれてくる子犬の性比は犬種によって多少違ってくるのではないかという仮説が立てられていました。
犬界を広く見わたした研究は皆無といっていいほど、犬の性比の世界は前人未到の状態です。少しでもそれに対する知見が得られれば、犬のブリーダーや繁殖に関わる技術者などが、繁殖における影響要因をより正しく理解するのに役立てていけるのではないかと考えたブラジルの獣医学者らの研究チーム(Pontifical Catholic University of Minas Geraisの研究者が主導)は、ジャーマン・シェパード・ドッグを対象として両親犬の年齢がひと腹当たりの産子数と性差にどのような影響を及ぼしているかを調査し、結果を『Theriogenology』に発表しました。