文:尾形聡子
[photo by smerikal]
家庭犬に比べ、シェルターに暮らす犬たちはより多くのストレスを感じながら日々の生活を送っています。本能的に犬は人とコミュニケーションをとったり、適度な外的刺激を受けることを必要としているため、人との交流時間や受けられる刺激の種類が限られているシェルターではそれらが犬たちにとって避けがたいストレス要因となりがちです。
シェルターに暮らす犬たちの福祉をよくしていくための研究は数多く行われていますが、犬曰くではこれまでに、シェルターにいる犬たちはたった1回、15分間人と交流するだけでリラックスすることができたり、におい刺激を増やすだけで落ち着きや睡眠を増加することができるという研究結果を紹介してきました。また、シェルターという場所は得てして騒々しいもので、ある程度はそんな喧騒に慣れることができても、長い時間落ち着いて睡眠を続けることはどうしても難しくなってきます。実際、成犬の家庭犬が1日に14時間寝るのに比べ、シェルター犬は11時間眠れるかどうかといわれているそうです。
シェルターで何が起こり、それがそこに暮らす動物たちにどんな影響を与えているのか研究を続けているアメリカのアリゾナ州立大学の心理学者の研究チームは、アメリカで行われている短期間のフォスター(保護犬の一時預かりをするボランティア)宅への短期外泊がシェルターの犬たちにどのような影響を及ぼすか調査しました。『PeerJ』に発表された研究によれば、一時的ではあるものの、短い外泊はシェルター犬たちのストレスレベルを低下させ、ゆったりと長時間の睡眠をもたらすのに十分な効果があることが示されたそうです。
外泊によってすべての犬のコルチゾールが低下、ゆったりする時間は長く
研究では1泊または2泊のフォスター宅への外泊をする際に、犬のストレスがどのように変化するかが調べられました。参加したのはアリゾナ州、ユタ州、テキサス州、モンタナ州、ジョージア州にある5つのシェルターにいる207頭の犬たち。ストレスレベルを測定するために尿中のコルチゾール濃度、安静時の脈拍数、中断されない最長睡眠時間が計測されました。コルチゾール濃度を測るため、犬はフォスターの家へ行く前、行っている間、シェルターに戻ってきてから採尿されました。また、体に負担のかからない心拍モニターを装着し、シェルターとフォスターの家の両方において心拍数と活動レベルが測定されました。
その結果、外泊中にはすべての犬のコルチゾールレベルは大幅に減少していました。しかしシェルターに戻ると、再びベースラインに戻っていました。つまりそれはシェルターで暮らすストレスから一時離れることができたのを示すものでもあります。体重、年齢、安静時の心拍数が高い犬ほどコルチゾールレベルも高く、中断されない睡眠時間が長い犬ほどコルチゾールレベルが低い傾向があることが示されました。また、もっとも休息時間が長かったのは外泊中だったものの、シェルターに戻ってきた後は以前よりも長い時間休息をとっていました。
これらのことより研究者らは、フォスター宅での短期滞在をプログラムに取り入れていないシェルターでは、犬たちの福祉向上のひとつの手段として試してみるべきだといっています。
コルチゾールレベルの減少の程度はシェルターによって違いが見られたそうです。それについて研究者らは、5つの施設それぞれに特有の環境要因の何かがシェルター犬の福祉に影響している可能性があるといい、たとえばシェルターの規模を見ても、1年間に600頭から6,000頭以上と幅がある状況でした。その所在を明らかにし、シェルターで暮らす犬の生活を向上させるためにストレス要因を和らげるような取り組みをすべきだとしています。
[photo by Christopher Amrich]
保護犬の一時預かり制度は日本にもありますが、今回研究が行われたアメリカほどは一般的ではないと感じます。フォスターのボランティアの方々は保護犬と家庭で過ごすことで、家だからこそ見せるその犬の特徴や行動などの情報を新しい家族になる人々へ伝えることができるでしょう。さらに長期ではなく、1日2日の短い外泊でも犬のストレス軽減にプラスに働くことが今回の研究で示されたことから、ここ日本でも、新しい家族がなかなか見つからない犬たちなどに提供していけるといい仕組みなのかもしれないと感じます。
【参考文献】
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