スウェーデンの犬事情について質疑応答~藤田りか子さんセミナーレポート(3)

文と写真:尾形聡子(本記事はdog actuallyにて2016年5月17日、5月31日に初出したものを一部修正して公開しています)

2回にわたり、日本ペットサミット(J-PETS)主催のセミナー『スウェーデンにおけるどうぶつ達の暮らしから、日本のどうぶつ事情を考える』での藤田さんの講演を紹介いたしました。3回目の今回はセミナー後半に行われました、ディスカッションの模様を紹介したいと思います。日本ペットサミット会長で東京大学獣医外科学教室教授の西村亮平先生による進行のもと、藤田さんへさまざまな質問が寄せられる1時間となりました。

西村先生:先日ベトナムに行ってきたのですが、そこでの様子が昔の日本のようだと感じました。街をぶらぶらと自由に犬が歩いていて、それが生活の中に普通に溶け込んでいるといいますか。スウェーデンは人が犬を管理する道を歩んできましたが、日本でも同じようにすることがいいのでしょうか。人も犬もお互いが幸せに暮らしていくために、今の日本ではどのようにしていったらいいのかということについてディスカッションできればと思います。

-日本では、獣医師からは病気のことも考えたうえで犬の去勢や避妊の手術をすすめられることが多いのですが、なぜスウェーデンではそんなにも少ないのでしょうか。

藤田さん:もちろん病気のリスクはありますが、たとえばオス犬の飼い主であると、去勢をすると負けだというような意識があります。去勢をするということは、犬をコントロールすることができなかったからだと見られるのです。ですから基本的に去勢はせず、オスとしての問題をコントロールするために最大限トレーニングを頑張るという風潮があります。

さらに、去勢手術をしてしまうと生殖器に関する病気を発症する犬を減らしていきにくくなるという意見があります。そのままの状態にしておいたほうが、いい遺伝子を残していくという意味からも犬にとって健康的なのではないかという議論がされています。そのくらスウェーデンでは繁殖をきちんと行っているんですね。また、80年代の終わりぐらいまで、健康な犬に去勢や避妊手術をしてはいけないという法律がありました。

-日本ではそのような考え方をする人は少ないと思うのですが。

藤田さん:アメリカでは犬を放していることに寛容な部分があるようなので、子犬を作らないようにするためにも去勢をしなくてはならない、という話を聞いたことがあります。スウェーデンでは犬を放して家から出すようなことはご法度ですし、周囲の人からも怒られます。そういう国ですから、なにも手術をしなくても犬人口のコントロールはできるよね、となってくるわけです。この点は文化の違いの表れでもありますよね。

-どうしてスウェーデンでは犬の保険の加入率が80%と高いのでしょうか?日本は5%程度です。

藤田さん:保険会社も聞かれるらしいのですが・・・なぜでしょう?笑。1800年代の終わりころから家畜をきちんと飼おうという風潮があったことが、少なくとも影響しているのではないかと考えます。犬の保険自体も古く、100年の歴史があるのですよ。ブリーダーも責任感が強いのでまず保険に入っています。そこから子犬を譲ってもらうとき、新しい飼い主となる人はその犬にかけられている保険の引継ぎをするという流れもあるので、保険のことを何も知らない人でも犬には保険を掛けるものなんだということがすんなり受け入れられているのだと思います。

-保険料や内容は?

藤田さん:日本よりスウェーデンのほうが若干高いそうですが、医療保障だけでなく死亡保障もあります。ほかには、ブリーダーのための保険や狩猟犬が狩りをすることができなくなった保険など、いろいろな種類がありますね。保険料は犬種によって異なっていますが、私の犬はカーリーコーテッド・レトリーバーという犬種で、死亡保障も含めて1年で4万円くらい支払っています。

-スウェーデンの寒い冬の間、どのようにして散歩やトレーニングをしているのでしょうか?

藤田さん:冬でも普通に散歩やトレーニングをしていますよ。マイナス5度くらいならば、チワワのような小型犬でも犬は動いていれば寒くないので、服を着せるようなことはありません。マイナス15度から20度くらいまで冷え込んだり、車の中でじっと待たなくてはならない時などにはコートのようなものを着せますけれど。犬は気温が高くなったために死亡するということはよく耳にしますが、寒すぎて死亡するということはあまり聞かないですよね。

[photo by Rikako Fujita]

-スウェーデンでの子どもへの犬教育はどんな感じで行われているのでしょうか?

藤田さん:犬への接し方を教えるような小学校もあるにはありますが、必ず行われているわけではありません。ただ、犬を触るときには必ず飼い主に”触ってもいいですか?”と聞きましょう、といったくらいのことは言われていると思います。いずれにしても、多くの大人が犬の扱いを常識としてある程度知っているので、とりたてて教育というよりも日常的に犬との接し方を覚えていけるような環境なのだと思います。日本では犬と触れ合ったことのない子どもがいるようですが、スウェーデンではそれはないですね。もちろんスウェーデンにも犬が嫌いな人はいますけれど。

-変なことを聞きますが、スウェーデンでは犬はいくらくらいですか?

藤田さん:うーんそうですね・・・、17万円くらいでしょうか。ただし日本と違うと思うのは、ブリーダーの犬はある程度一定した質を保っていることです。スウェーデンではケネルクラブの下に犬種クラブがあるのですが、犬種クラブにはケネルクラブのルールよりもさらに細かいルールがあります。そのルールにのっとりブリーダーたちが犬を作っているため、質が揃った犬になるのです。ショータイプとか家庭犬タイプとかいった区別もありません。アメリカなどに犬を売る場合には、ショータイプとして少し値段を高くしている場合もあるかもしれませんが、国内ではそれはできませんね。

そもそもスウェーデンでは値段のことはあまり言われません。逆に、私がブリーダーを取材してきて分かったのは、ブリーダー側には”子犬の値段をすぐに聞いてくる人には売りたくない”という意見があることです。その犬種のことを知ろうとする人、気質を聞いてくる人、どんな掛け合わせをしているのかといったような質問をしてくる人を、責任感のある飼い主だと考えるそうです。

-それでブリーダーは生活していけるのですか?

藤田さん:ほとんどがホビーブリーダーなので、商業ベースではありません。ほとんどの人が別に本業を持っています。ハッキリ言って、ブリーダーは全然もうかるようなものではありません。犬種を守っていくためにはショーにでて、ある程度の成績をおさめなくてはなりませんが、ショーに出るにはお金がかかります。さらに、レトリーバーなどの作業犬ではショーに出ながらトレーニングのタイトルもつけていかなくてはなりません。健康面のこともあります。ブリーダーは莫大な時間と労力のかかる仕事で、きちんと犬をつくろうとすればするほど尚更ですから、ホビーでやる余裕がないとできないものです。

-スウェーデンでのブリーディングにおける”いい犬”とは、どのような犬だと考えられていますか?

藤田さん:それぞれの犬種が持っている使役に基づいたブリーディングをしていきます。たとえばゴールデン・レトリーバーですと、本来狩猟犬ですからトレーニングのしやすい犬でなくてはならなりません。また、どのような犬種でも、たとえ使役のない犬でも気質については”いい気質”でなくてはいけないとされる風潮になっています。犬の気質を判断する材料として最近ケネルクラブから気質テストがだされたのですが、そういったものを取り入れてブリーディングが行われるようになってきています。ショーでタイトルをたくさん獲っている犬でも、気質テストの結果を見て、本当にその犬をラインにいれるべきかどうか、といったことが検討されるのです。

-犬が日常生活の中に溶け込むにはどうしたらいいのでしょうか?

西村先生:新宿にある複合施設のようなものの一角に、1年間ほど犬連れで行けるオープンカフェがあり、どんな施設かのぞきに行ったことがあります。カフェに集まっていた犬は小型犬が多かったのですが、ほかの犬が来るたびにギャンギャン吠えたり、リードから放れてしまった犬が走り回って大混乱になったり、また店員さんも犬にちょっかいを出すだけ出しているといった感じでした。そこでの様子を見るに日本で犬が社会に溶け込むのはなかなか難しいのではないかなと感じてしまったのですが。

藤田さん:そんなことはないです、難しくないですよ。いきなりそういったカフェに犬を連れてくるということが、そもそもよくないのです。どんな犬でもいきなりカフェに連れてこられたらビックリしますよ。そんなときには、まず公園などで運動をたっぷりして疲れさせておいてから、カフェに連れていくようにします。そうすれば、ほかの犬を見かけても”ああ、あそこに犬がいるね”とテンションが下がった状態でほかの犬を受け入れられると思います。私の犬でもやっていますし、もちろんそれは日本でも可能だと思いますよ。

西村先生:小型犬と大型犬の違いといいますか、そのあたりが犬が社会に溶け込みにくい原因にもなっているのでしょうか?

藤田さん:スウェーデンはもともと大型犬の多い国だったのですが、メディアの影響もあってここ10年くらいでチワワがすごく人気になりました。ミックス犬もほとんどいなかったのですが、チワワ人気から小型のミックス犬もとても増えています。それまで小型犬の存在がスウェーデンには広まっていなかったのが急にメジャーになったことから、小型犬なら私でも飼えるといった感じで、何となく不真面目といいますか、あまり責任感を持たずに犬を飼い始める人が増えてきたんです。先ほどお話ししたオーストリアの研究でも小型犬が一番多く里親にだされていましたように、小型だから簡単にコントロールできると自負してしまい、犬を犬として見てあげられていないことの結果なのではないかとも思います

-日本でもスウェーデンでも小型犬に対する人々の認識は変わらないということでしょうか?

藤田さん:どちらの国においても、もちろん小型犬を真剣に飼っている方も大勢いらっしゃいますが、簡単に飼えると考えている方が多い傾向にあると思います。先ほどのオーストリアの研究でも、小型犬の飼い主のほうが犬と一緒に遊んだりトレーニングする時間が短く、あまり社会化されていないためにより不安が強かったり怖がりだという調査結果がでていましたよね。小型犬は簡単に飼えるという気持ちを持ちがちなのは、人間の性なのでしょうか・・・。

-スウェーデンでは社会に犬が溶け込んでいるから、皆が犬を知っているという感じなのでしょうか?

藤田さん:自然と社会に溶け込んでいるというより、保険の加入率やマイクロチップの装着率が高いところからもわかるように、犬を飼うことに責任を持っていますね。責任を持つと同時に犬と楽しく暮らしたいと思いますので、犬を社会化するためにパピークラスに通ったりドッグスポーツをしたりと、自分たちから社会に馴染んでいこうとする傾向があるんだと思います。押し付けられているわけではなく、自発的にやっている感じです。

-日本で小型犬が多いのは住宅事情もあると思います。外国ではどうでしょうか?

藤田さん:日本では小型犬はOKだけど大型犬はダメというマンションがあると聞いて、とてもビックリしました。犬の大きさは関係ないと思いますよ。たとえば小型犬のほうがキャンキャン吠えますから、大型犬のレトリーバーのほうが静かです。なので、大きさで制限するようなルールを作るのは、犬を知らないからなんだなと正直思いました。また、大型犬にはフェンスがついている大きな庭が必要などと書かれているサイトを見かけることもありますが、どんなに広い家に住んでいても、どんなに広い庭があっても、必ず外に出てアクティビティを積むことが犬にとって必要です。逆にどんなに狭い家でも、犬が外で十分に体を動かし脳に刺激を与えることができれば、まったく問題なく大型犬と暮らせます。

-スウェーデンにはブリーディングを教える学校のようなものはありますか?日本ではブリーダーが減っていて、新しいブリーダーがなかなか増えません。美容関係の学校はたくさんあってもブリーダー教育の学校はないので、そのような学校ができるといいのではないかと思うのですが。

藤田さん:専門的な学校はありませんが、ケネルクラブがブリーダーのための教育を行っています。日本でブリーダーが育たない一番の原因は、犬種クラブが無いことだと思います。スウェーデンの犬種クラブはそれぞれひとつにまとまっていて、各犬種クラブではショーをしたり催し物をしたりして、たくさんの情報が交換されます。そこではブリーダーの話、親犬の話、掛け合わせの話なども出てきますので、犬種クラブの集まりからもブリーディングというものがどういうものかという知識が自然と身について行きやすいのだと思います。犬種クラブへの入り口もブリーダーが作ってくれていて、子犬を迎えたら半年間は犬種クラブへの参加を保証してくれています。

このように、犬種への興味を深めていくためにはローカルなつながりが大事だと思うのですが、日本の場合はペットショップから犬を迎える状況が多いでしょうから、犬種クラブとのつながりもできにくいのだと思います。

-犬種クラブそのものの存在が、ショーが商業主義化している日本でのそれとは違う感じがするのですが。

藤田さん:犬種クラブには必ず会長がいて、PRをする人たちがいて、ブリーディングの委員会、アクティビティやトレーニングを担当する委員会、ショー関係の委員会があるなど、組織としてとてもしっかり運営されています。この点はスウェーデンの特徴でしょうね。犬種クラブの活動は、とにかくアクティビティがとてもバラエティに富んでいます。日本の現状を伺うに、犬と一緒に楽しもうという気風を作っていかないと、犬はあくまでも商品であり物であり、売買の対象として見られがちになってしまうのではないかと感じます。

-割合からすると、スウェーデンでは不真面目な飼い主が少数派のようですが、どうしてそのような状況になっているのだと考えますか?

藤田さん:たとえばブリーダーでも不真面目な人がいれば批判の対象になります。犬種クラブで動いているので、批判の対象になるとそこではやっていけなくなるような社会的な圧力がありますね。それは飼い主に対しても同じで、犬種クラブの存在は不真面目な飼い主にならないような抑止力にもなっていると思います。

-ワーキングドッグの存在は、人と犬が共存しやすい社会をつくるきっかけになるでしょうか?

西村先生:日本では飼い主と犬の関係性は成り立っていても、そこから社会にどうでていくかという点がとても希薄だと感じます。犬を見たことも触ったこともないという子どももいます。ワーキングドッグが活躍している姿を多くの人が目にするようになれば、人々が犬を受け入れていくようになり、人と犬とが共存しやすい社会になるきっかけともなると思うのですが。

藤田さん:社会で犬が目に触れられるようになるには、ワーキングドッグというよりも普通の飼い主が社会にでていくことがまずは大事なのではないかと思います。そもそも犬は社会に出て環境訓練をし、社会性を保っていなければならないと思います。社会に出ていない犬は不幸です。犬を幸せにしたいと思うなら、どんどん社会に出ていくべきです。

ワーキングドッグにもいろいろな種類がありますが、ちょっとしたデモンストレーションを行って、犬が生き生きと楽しく仕事をしている姿を目の当たりにすれば、犬はこんな使役をするんだね、犬はこんな生き物なんだということを感じてもらうことはできるかもしれませんね。

-スウェーデンの人々は日本の犬事情をどうみているでしょうか?

藤田さん:スウェーデンの現地で日本の犬事情が話題になることはそうないですが、スウェーデンのトレーナーなどを日本に連れてきたときに、彼らが見た日本の犬事情について言われたことはあります。カートに犬が乗っている!と(笑)。

-スウェーデンは犬に対して愛玩という観点はないのですか?

藤田さん:もちろんスウェーデンにも愛玩という観点はあります。けれども犬は犬としての習性を持っているということを前提としていますね。日本とスウェーデンのどちらの社会が、人と犬とが共存していくのにいいかということではなく、一番大切にするべきなのは、犬の習性を大切にし、犬がどう感じているのか、満足できる生活を送れているかということだと思います。

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セミナー全体を通じて感じたのは、人の目線から、犬との共存社会における利益を追求してばかりでは、いつまでたっても人と犬は平行線のままで溶け合うことはなく、本当の意味での共存は成立しえないのではないか、ということです。藤田さんがセミナー前半の講義で話をされていたように、犬の飼い主ひとりひとりが犬へのエンリッチメントを考えること、そして犬を擬人化していいところと擬人化してはいけないところを知ろうとすることで犬への理解が深まっていき、少しずつでもそれが社会に浸透していくことで、自然に犬と人がお互いに幸せに暮らせる社会へと向かっていくのではないかと感じました。

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