呼び戻しとロングリード・トレーニング その2

文と写真:藤田りか子

ロングリードでアジリティ。ここスウェーデンのワーキングドッグクラブのアジリティ練習所のまわりには鹿がいっぱい。おまけに、練習所は柵で囲われていない。仕方がないので、ロングリードをつけたままアジリティの練習。我々はこのスポーツにおいては初心者。ロングリードの意義は、犬にそれ以上「余計な行動」を学習させない、ということ。ときどき障害をリードでなぎたおすこともあるが、ちゃんとできる。なにしろ、リードがあるという安心感で、私も堂々と犬に振る舞えることができるのだ。これも大事なところ!

前回の続きだ。

ラッコの狩猟欲はすでにピーク。どうにもこうにも手の施しようがなかった。だから、ここをどうこうするのは、ほとんど無意味に見えた。インストラクターのアニカさんは、

「狩猟欲に反するのではなく、狩猟欲を利用してトレーニングをしましょう」

とアドバイスをくれた。そして狙いは、プレマックの原理を使う、ということ。この原理については後述しよう。

ロングリードをつけてトレーニングをしなさい、と、アドバイスを受け、さっそくペットショップで15mのもの、そしてハーネスを購入した。通常、ロングリードとハーネスは、トラッキングの時に使うのだが、トラッキングで使うものと分けるためにあらたに別のタイプを買った。ロングリードで犬を散歩させる時は、もちろん、リードは地面に垂らしておく。大事なのはリードを張らせないことだ。ロングリードの利点の一つは、犬は「自分は自由!」と錯覚してくれることにある。そして犬が自ら進んでアイコンタクトをとった場合は、ご褒美を与える。それはトリーツだったりボールだったり引っ張りっこおもちゃだったり。ご褒美にはたくさんのバリエーションを持たせる。これ、ドッグトレーニングの基本中の基本。

そして、いざ、鹿の匂いを嗅ぎ始めてしまった場合、どうすりゃいい?

「….というかね、とにかくラッコのボディランゲージをずっと読み続けること。鼻を上げ始め、空気からにおいを取ろうとしているだけでもいいの」

とアニカさん。その瞬間にクリック、あるいは、私は呼び戻しの合図か、笛を吹く。

「鹿のニオイを取ることに対してご褒美を与え、そしてこっちにまず来ることをおぼえさせます」

そしてやってきたら、すぐに「いいよ!」と自由コマンドを与える。つまり自由コマンドがご褒美。もちろん鹿のニオイの強さによって、ご褒美はトリーツであったり、ボールであったりすることもある。ちなみに鹿のニオイの強さは、私はラッコの行動で推し量る。ただなんとなく嗅ぎ探し始めているぐらいなら、オヤツをご褒美として与えても、十分、それを感謝するゆとりがある。しかし、ニオイがかなり強いと、もう食べているどころじゃないし、ボールを追いかけるどころでもない。口からボールもトリーツもペッと吐き出す始末だ。こういう時は、さっきニオイをとっていたところに自由に行かせる。ここでもロングリードが活かされる。自由に行けるものの、リードがあるから、その先、シカを追うことはない。それでも、ラッコにとっては、シカのニオイを嗅ぐとか探す、という搜索行為自体がご褒美になっている。

子供のしつけに例えると、たとえば「ゲームで遊ぶ」という行為は子供の自然な気持ちから自主的に、そして高頻度で現れる。しかし「勉強をする」という行為はなかなか現れない。そこで、「勉強をしたらゲームで遊べる」という随伴性を持たせると、「勉強をする」という行為はいつしか強化され、高い頻度で現れる行動になる。これがプレマックの原理だ。ラッコが私のところに来る、というのは低頻度で現れる行為。しかし、鹿の匂いを取る、というのは高頻度で現れる行為。そこでこの二つを合体させる。こっちへきたら、鹿の匂いをまた嗅ぎに戻っていいよ、という流れにする。すると、こっちへ来る、という行為が強化され、いつしか高頻度の行為になる、という寸法。

さらにここで私がラッコに教えているのは、「今やっている行動を中断する。そして私のところに一旦来る」

というトレーニングだ。そして中断されても、きっとその後に楽しいことが待っている。これを十分にラッコに洗脳した暁には、森を自由に歩かせ、やばい!と思った瞬間、行動を中断させることができる。大事なのは、犬がまだ鼻で「くんくん」やっているうちに、呼び戻すこと。行ってしまった犬を中断させるには、相当、犬と飼い主が繋がっていなければ、可能ではないだろう。

ここにスウェーデンの有名な家庭犬トレーナーであり、ドッグスポーツの競技者であるエヴァ・ボッドフェルトさんの動画を見られたい。彼女の愛犬のザックが公園にウサギを見つけ、それを呼び戻しする様子がここに撮られている。そしてエヴァさんも同じトレーニング方法を使っているのがわかる。犬が野生動物に興味を持った瞬間、罰さず、むしろ、それを褒める機会として捉え、犬がハンドラーにコンタクトを取る、ということを教えている。ハンドラーと犬が繋がっていれば、コントロールは全然取りやすい。エヴァさんの犬は、結局、座れ!というコマンドを無視して、ウサギに走って行ってしまったが、しかし「ダメ!来い!」に見事に反応して戻ってきた。私が最終的に目指しているのは、この動画のような関係だが、いや、ほんとうに、ここまで行き着けるか…..。

ただし、追いかけてはいけないものを追いかけさせない、そして呼び戻す、というトレーニングを行うためには、いきなりエヴァさんのような難しい状況では決して始めてはいけない。できるだけ刺激が少ないところで行い、まず犬に十分に呼び戻しのシグナルを刷り込むことである。素人撮りのひどいクォリティで申し訳ないが、少なくともどんな落ち着いた環境で、どんなふうにロングリードを使うのかの参考のために、ここに自作動画を紹介しよう。

いくつかの注意点を挙げておく。

  • このロングリードは、本来トラッキング用のリードで15mの長さがある。小型犬であれば、10mもあれば足りるだろう。
  • ただし普通の長さのリードで、呼び戻しができないうちに、ロングリードを使って練習しないことだ。普通の長さのリードを使って、犬が地面を嗅いでいるとき、呼び戻しをしてみよう。そのとき、犬はすぐに顔をあげてあなたのところにやってくるかな?これができていれば、ロングリードを購入して練習する価値がある。
  • この動画で見たとおり、ときどき犬が自分からコンタクトを取ることがあるから、その時はこちらへおびき寄せ、褒める。あるいはコンタクトを取っただけでもよし。犬が匂い始め、スイッチがオンになり、完全に集中する前に、呼び戻しのシグナルを与える。動画の最後で、ラッコは匂いを真剣に探し始めた。そこでスイッチがオンになる前に呼び戻したら、彼はちゃんとシグナルに応えた(動画ではみにくいのだが、このときボールを投げてご褒美を与えた)
  • やたらと呼び戻しのシグナルを与えない。犬も、だんだん飽きてくるからだ。アニカさんは、だいたい一つのセッションで3回ぐらい呼び戻しのシグナルを与える練習をするだけで十分だとアドバイスをくれた。それでも、犬が遠くへ行きそうであったら、何も言わずにリードを踏むか、あるいは手で固定して犬の動きを止めること。
  • 犬の動きをロングリードで制御することで、果たして犬は何を学習できるのか、という疑問があるのではないかと思う。ロングリードの意義は、余計な行動を学習させないためにある、と考えてもいいだろう。なにしろ、匂いを追って勝手に走るという機会を与えれば与えるほど、犬の学習はより骨の髄まで染み込んでゆくからだ。

呼び戻しのトレーニングは、呼び戻しだけをするだけで解決する問題ではない。普段からのコンタクトや協調関係を強めるトレーニングや遊びの時間をつくらないと!

さて、呼び戻しパフォーマンスが、これだけで完成する、だなんて思わないことだ。普段から、いっしょに協調をして何かをする、という癖やトレーニングをたくさん入れること。私の場合は、ダミーを回収させるガンドッグトレーニングをやっている。不思議なことに、回収トレーニングをやっている間は、たとえノーリードでも、滅多に勝手なところに走ってはいかない。私へ完全に気持ちを集中している。呼び戻しの一番の武器とは「かぁちゃんのそばにいくと楽しいね!」の感情だ。これを作らないで、ただロングリードで機械的にトレーニングをしても、功を奏さない。そう、トレーニングに王道はなし!テレビでみるみたいに、数回トレーニングをやって、はいできました!というセンセーショナルな世界は、まずない、と思ってほしい。

テレビで見せる犬のトレーニング番組の功罪はそこだと思う。誰もがあっという間にトレーニングできる、という幻想を視聴者に抱かせるのだ。もっともハンドラーが変われば、ラッコも、また別の関係をその人と築くから、あっという間に呼び戻しに応えるかもしれない。しかし私はすでに彼との間に問題を作ってしまっているわけで、だからこそ時間がかかる。そして、他の人ではなく、彼はあくまでも私の呼び戻しに応えなければならないのだ。なぜって、ラッコは私と暮らしているのだから!

ロングリードのトレーニングをしながら、普段から、犬といっしょに遊んだり、楽しいゲームをしたり。たくさんのインターアクション(やりとり)を作ることである。そして、私はとりあえず、ロングリードトレーニングを一年間続けるつもりだ。動画で見たように、すでにラッコは少なくとも以前よりは、呼び戻しに、断然応えるようになった。ゆっくりだけれど、必ず成果は出る。地道に、地道に!そしてこの地道な愛犬との旅の中で、犬についてのたくさんの知識を得るのは、請け合いだ!実は、それがとても楽しいことだと思う。犬を知ろうとする、犬を理解しようとする、自分の至らない点を知ろうとする。たくさんの経験と財産を手にいれるはずだから、どうか、どうか、めげずに頑張ってね!

ちなみにロングリードのおすすめ品はビオターネ製の絡まないリード。日本ではあまり知られていないけれど、ヨーロッパでは人気。ドイツから出ているこちらの商品はいかがだろう?

(本記事はdog actuallyにて2015年7月29日に初出したものを一部修正して公開しています)

【関連記事】

呼び戻しとロングリード・トレーニング その1
文と写真:藤田りか子 犬と飼い主の息があっているか否かのバロメーターは、完全な呼び戻しができているか否かによると思う。おすわりができなくてもいい、伏...