バクテリアと犬 (2)

文と写真:アルシャー京子

犬の皮膚や被毛の上に存在する常在菌というヤツラ。ほとんどがヒトにも無害なものであるが、たまにいたずらなヤツがその中には入っている。それもまた自然なのだ。

愛犬の体の上で見えないバリアーを作るバクテリア。お腹の中の腸内細菌に引き続き、今回は皮膚上について見てみよう。

犬の皮膚に常在するバクテリアとはこれまた多くの菌種から成り立っている。

まず常在菌の65%を占める最大手菌群のスタフィロコッカス・インターメディウス(Staphylococcus intermedius)、これに大きな差をつけられつつも7%を確保するのが非溶血性大腸菌(nonhaemolytic Escherichia coli)、続いて6.5%の腸球菌属(Enterococcus spp.) と、あとはどんぐりの背比べでいろんな菌がマルチカルチャーを繰り広げているのだ。菌種名を挙げても何のことやらさっぱりかもしれないが、まあこういうのが皮膚の表面を覆っていると思って欲しい。

ちなみに第二位の非溶血性大腸菌は非病原性大腸菌に属す常在菌であり、通常無害であるので「大腸菌」という名を聞いただけでビビらないように。大腸菌の中でも病原性を示すのはほんの一部のものなのである。

さて、健康な犬の皮膚の上でこれらの菌がひしめき合い異菌種同士で平衡を取り合っているのは腸内細菌と同じ。このバランスもまた一見平和そうに見えて微妙なバランスなのである。

例えば同じ箇所ばかりを舐める行動、例えばストレス、いろんな理由により皮膚の常在菌バランスは変わってしまう。

特に気をつけたいのが「薬用殺菌シャンプー」の使用。これはカビや細菌により皮膚病に罹ってしまったらすぐに勧められてしまう殺菌剤入りのシャンプーだが、高い殺菌力があるものほど、多くの細菌種に効果があるほど、病原菌どころか皮膚を守ってくれている常在菌までをも殺し、皮膚を無防備な状態にしてしまう。

ちょっとドラマチックに描いてみるならば悪者を退治するためにそこにいた一般市民をも巻き添えにして核爆弾を落とし、皮膚は荒野となってしまった状態といったところ。誰もいなくなってしまった荒野に運良く一般市民が移民し復興してくれるならいいが、下手すると悪者が再びどこからともなく現れ荒野を陣取る。

そして一般市民よりも悪者がのさばったためまた爆弾を落とし...こうして「薬用殺菌シャンプーを使って一時はよくなったのにまた再発した」という「殺菌と再発」の悪循環は出来上がってゆく。そう、何でもかんでも無差別に殺してしまえばいいというものではないのだ。

犬の皮膚を健康に保ちたいのならばまずは普段から皮膚の常在菌を大事にするべきだろう。

犬の皮膚を「清潔」に保つことは「無菌状態」にすることではない。

爆弾を落として荒野になってしまった後は、一般市民に一刻も早く定住してもらい悪者がはびこることができない安定した町内会を作ってもらうかが勝負どころとなるのだが、荒野には一般市民の勧誘と定住にこれといって決定打がないのが事実。また悪者の拡大を阻止する方法も荒野にはない。

腸内細菌ならばヨーグルトなどを与えることにより荒野に一般市民(善玉菌)を補充できるが、皮膚の常在菌はそう簡単には元のバランスを取ることができないのが悩みの種である。果たして我々は黙って運を天に任せるしかないのか?

せめて薬用殺菌シャンプーは必要最低限の使用にとどめ、頻繁に使用することはできるだけ避けたいものだ。

ああ、皮膚常在菌は一日にしてならず...

(本記事はdog actuallyにて2009年5月19日に初出したものをそのまま公開しています)

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