犬を飼うと幸せになれるのか?

文:北條美紀

ねぇおばあちゃん、僕たちの子犬だよ![Photyo by Jaci XIV]

今回のお題はド直球、「犬を飼うと幸せになれるのか?」

今回考えたいのは、この「幸せ」だ。

皆さんは、幸せというと何をイメージするだろう?多くの人は、明るい快活さ、楽しい笑顔、温かさや癒し、安心感などを思い浮かべるのではないだろうか。これらの「快」感情は「ポジティブ感情」といい、実は人の持続的幸福(flourishing)のごく一部分にすぎない。にもかかわらず、私たちは、あまりにも個人的な「快」を追い求めがちだ。

もし、個人的な「快」を得たいという目的だけで犬を飼ったのなら、幸せにはなれないかもしれない。というのも、子どものいる夫婦は、いない夫婦に比べて、ポジティブ感情が平均的に低いという定評があるからだ。

ずっと続く豊かな幸せのための5つの要素

『あなたの犬に「何をしてもムダだ」と感じさせないように』に登場した「PERMA」を覚えているだろうか。PERMAは、ポジティブ心理学の父マーティン・セリグマン(Martin Seligman)が幸福を科学的に研究する中で見出した、ウェルビーイング(Well being)を構成する5つの要素だ。ここでもう一度見直してみよう。

P:ポジティブ感情

楽しみ、歓喜、恍惚感、温もり、心地よさなどの「快」感情であり、自分が「感じる」もの。この要素を中心に過ごす人生は「快の人生」と呼ばれる。酒を飲んだり、買い物に行ったり、テレビを見たりすれば、簡単に得ることができるが、持続時間が短く、すぐに慣れてしまう。

E:エンゲージメント

「フロー」状態。音楽との一体感や、時が止まる感覚、無我夢中の中で起きる没我の感覚。フロー状態を得ることを目的にした生き方は「充実した人生」と呼ばれる。フロー状態とは、何も感じず考えない高度な集中状態。手に入れる近道はなく、自分の強みや才能を発揮しなければ味わうことはできない。

R:関係性

ポジティブな関係性。人は、関係性の問題を解決するために社会脳を発達させながら進化してきた。社会脳には、群居感情と呼ばれる愛情や思いやり、親切心、チームワーク、自己犠牲などを司る構造があり、他者を理解するためのミラーニューロンも備わっている。

M:意味・意義

人生における意味や目的。自分より大きな存在、大切な何かだと信じるものに属して、そこに貢献するという生き方は「有意義な人生」と呼ばれる。大きな存在には、宗教や、ロハス、エコライフ、愛護活動、ボーイスカウト、家族など、さまざまなものが含まれる。

A:達成

何かを達成するときには、ポジティブ感情、エンゲージメント、意味・意義、ポジティブな関係性の中の何か(あるいはすべて)が得られることが多いが、それらがなくても、「勝つためだけに勝つ」「達成するためだけに達成する」という生き方がある。この生き方は「達成のための人生」と呼ばれる。富の追及で起きれば、お金を稼ぐことそのものが目的となる。

犬を飼うことで得られるものは

先日開催された『第二回犬曰く勉強会』の中で、私は多くのウェルビーイングの要素を見た。宿題として課されていたのが「愛⽝とより感情的につながるために、皆さんはどんなことをしていますか?」だった。参加者の皆さんそれぞれが、犬とつながるため、つまりR(関係性)を高めるために様々な工夫をし、心を砕いていた。それは、学習理論でいう陽性強化や消去なんていう言葉で語れるようなものではない。時間をかけ、犬を読み、知恵を絞って試行錯誤する中で獲得される。

また、講師の藤田さんは、競技会の中で起きるフロー状態、E(エンゲージメント)について話してくれた。周りが全く関係なくなり、緊張も不安もない状態。そんな状態になると素晴らしい成績が出るらしい。ここには、A(達成)の要素も同時に含まれているだろう。

そして、平日19時からという貴重な時間を割いて勉強会に参加し、もっと犬を知りたい、絆を深めたいという思いは、犬を飼うことそのものにM(意味・意義)を感じてのことではなかろうか。講師の藤田さんや尾形さんが、犬のウェルフェアのために欠かさず記事を書き続けているのも、きっとMあってのことだろう。

もちろん、これらすべてはP(ポジティブ感情)を高める。分かった!という感覚やみんなと共感し合えた喜び、和気あいあいとした楽しさなどだ。

犬を飼うということは、こんなに多くの持続的幸福をもたらす。ただ、それは犬を飼えば自然と手に入るものではないから、口を開けて待っていても幸せにはならない。かといって、単に高い金を犬につぎ込めばいいわけでもない。もしかしたら多くの犠牲が必要かもしれないが、ウェルビーイングを考えれば、その犠牲自体も持続的幸福の一つになり得るのだ。

さて、「犬を飼うと幸せになれるのか?」という問いへの答えはどうだろう。私の答えは「イエス!」だ。

【参考・引用】

『ポジティブ心理学の挑戦〝幸福″から〝持続的幸福″へ』マーティン・セリグマン著,2014,ディスカバー・トゥエンティワン

・TEDビデオ「The new era of positive psychology」,Martin Seligman,2004

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臨床心理士・公認心理師。北條みき心理相談室運営。一万時間以上のカウンセリングを重ねた今でも、人の心は未だ分からず、知りたいことだらけ。尽きない興味で、日々のカウンセリングに臨んでいる。犬と人との関係を考えるために、犬に関わる人間の心理学的理解が一助にならないかと鋭意思案中。

北條みき心理相談室:www.hojomiki-counseling0601.jp