シートベルトが守る犬の命

文:サニーカミヤ


[photo by Andrey_Popov/shutterstock]

重要な犬のシートベルト

近年、飲酒運転の取り締まりが厳しくなり、また、社会全体の飲酒運転へのモラルの向上、取り締まり&罰則強化、自動車安全性能の大幅な向上などにより、衝突車両が大破して中に挟まれた運転手や同乗者が死亡する事故は減少傾向にあります。

そして、犬を乗せることを前提とした車のデザインも増え、社会的に犬連れのドライブなどの同乗割合は高くなってきています。しかしアメリカのように同乗する犬のシートベルト着用義務が法律などで制定されていないため、着用率は低いのが現状です。もし犬がシートベルトをしていない場合は、衝突事故のときに重傷を負うことが考えられます。


Dog Crash Tests (出典:Youtube )

また犬がシートベルトをしておらず、衝突事故で運転者が挟まれて脱出できなくなった場合、レスキュー隊がドアを開けたとたん犬が道路に飛び出して交通事故に遭うという二次災害も想定できます。

最近では同乗事故の予防策として、犬にシートベルトを着けるためのさまざまな用具が販売されています。しかし安全基準などがないためか、犬が装着しているハーネスの形状やシートベルトへの固定方法によっては、衝突のショックで胸部や上腹部をハーネスにより急激に強く圧迫されて「ハーネス外傷」を受傷する可能性があります。

様々なスタイルのハーネスやケージ類がありますが、どのようなハーネスが安全で、どこにどのように固定するのが安全なのか、ケージについてはソフトケージ、ハードケージの固定方法などにより命率が変わってきます。犬のシートベルトとして理想的なデザインは、胸の部分に幅が広めの救命胴衣のようなウレタンが入っているものになります。


アメリカでは50州のうち32州(赤)はペットのシートベルト義務条例がある。(出典:WikiPedia)

事故時はハーネス外傷を疑え

特に衝突事故によるハーネス外傷は、人間のハンドル外傷と似ており、胸腔内あるいは腹腔内臓器損傷を合併することあります。具体的には下記の通りです。

① 直達外力による頸椎、鎖骨骨折等や胸骨・肋骨骨折などの胸郭損傷
② 減速外力による心大血管損傷,肝損傷など
③ 胸部分のハーネスと胸椎に挟まれることによる膵・十二指腸損傷など

受傷直後は症状がみられなくても、遅発性ハーネス外傷を疑われる症状が出る場合もあるので注意が必要です。事故後犬がなんともない様子でも、必ず獣医で受診されることをお勧めします。

レスキュー隊の方は、犬が同乗している衝突車両から飼い主家族と思われる運転者と同乗者を助ける際には、犬の逸走に気をつけて下さい。また、観察時にはハーネス外傷(多発外傷)も疑って、飼い主の救急処置後は、犬に対してできるだけの救急処置を行っていただき、動物病院への連絡なども取っていただけると犬の救命率は上がり、飼い主家族からも喜ばれると思います。

最後に、アメリカでペット同乗時に推奨されている、ペットを交通事故から守るためのポイントについてご紹介いたします。

・ ペットを車に乗せた場合はシートベルトを着用させる。
・ ハーネスは事故のショックに耐えられると思われる強いモノを選ぶ。
・ シートベルトはハーネスに直接付けるなど最短で装着する。
・ ケージは丈夫なモノを選びシートベルトで3点固定する。
・ ハーネスは胸幅の広いものや胸の部分に緩衝材などが入っているモノを選ぶ。
・ ペットは運転手の真後ろの後部座席にシートベルトを装着させる。 など。

ほとんどの犬はドライブ中、窓の外の景色を見るのが大好きなので、できれば自由にしてあげたいと思ってしまいがちです。しかし犬が自由に車のなかで遊んでいる状態は、事故の原因にも繋がりますし、道路交通法第55条2項違反になる可能性もあります。

【道路交通法第55条2項】
車両の運転者は、運転者の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げ、後写鏡の効用を失わせ、車両の安定を害し、又は外部から当該車両の方向指示器、車両の番号標、制動灯、尾灯若しくは後部反射器を確認することができないこととなるような乗車をさせ、又は積載をして車両を運転してはならない。

何よりも急ブレーキや急停車、衝突事故などを起こした際に犬が前のフロントガラスやダッシュボードに叩きつけられ、大けがをする可能性もあります。

いずれ日本でも犬のシートベルト着用義務が条例などで制定される日が来るかもしれませんが、今から愛犬の命を守る術としてシートベルト着用を実践し、普及したいですね。

人間の命はもちろん、犬の命を当たり前に守ることも一緒にモラルとして高めていきましょう。

本記事はリスク対策.comにて2017年3月7日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防錆教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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