文:尾形聡子
[photo by Anna Hudorozkova/shutterstock] スタッフォードシャー・ブル・テリアの子犬たちのご飯タイム。みんな食べるのに必死。
アトピー性皮膚炎は犬にもっとも頻繁に発症する皮膚病といわれています。ハウスダスト、カビ、花粉などのアレルゲンに対して過剰な免疫反応を起こすアレルギー性の皮膚炎で、犬の有病率は3〜10%ほど(増加傾向とされている)、通常3歳くらいまでに発症します。アトピーは人での研究が盛んに行われていて、遺伝、エピジェネティクス、環境要因などが複雑に絡み合って発症する多因子性の病気であることがわかっていますが、発症のメカニズムについてはまだ未知の領域が多い状況です。
犬のアトピー研究では、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアや柴犬など犬種によってかかりやすさが違うことから遺伝が関係すると示唆されており、これまでにジャーマン・シェパードやゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなどではいくつかの遺伝子や遺伝子領域とアトピーとの関連性が明らかにされています。犬も人と同じくメスの方が有病率が高く、そのほかには母犬がアトピーであること、被毛の半分以上が白毛であることが、病気の発症と有意に関連しているという報告があります。
そして人においては、妊娠期間と子ども時代がアトピー発症のリスクを軽減させるための重要な時期だとされ、食事の栄養バランスや調理方法がリスク/予防要因となるといわれています。犬でも同様に、最近の研究では授乳中の母犬の食餌が生まれてくる犬のアレルギー発症要因となる可能性が示唆されています。
また、食事がアトピーの特徴のひとつである皮膚のバリア機能の欠陥を改善すると考えられているのですが、実際に人と犬の両方において、特定の食べ物が皮膚症状を改善するとの報告がされています。さらに人やマウスなどでは、食べ物の内容の違いが皮膚組織にかかわる遺伝子の発現を変化させていることがわかっています。
フィンランドのヘルシンキ大学のAnna Hielm-Björkman氏率いる研究チームは犬のアトピー研究を推し進めるべく、
①出生前〜子犬期の食餌内容と微生物叢など特定の環境要因への暴露のタイミングや頻度などがどのようにアトピー性皮膚炎の発症に関連するか
②成犬のアトピー発症犬と健康な犬との間で発現が異なる遺伝子を見つけ、さらに食餌内容により遺伝子発現に変化が起こるかどうか
を調べました。そしてそれぞれの結果を