犬の首に危険なのは、どんなタイプの首輪?

文:尾形聡子


[photo by Renée Johnson]

犬と暮らす人ならば、誰でも一度は散歩中に犬がリードを引っ張る状態、首輪によって犬の首が締めつけられているような状態を経験したことがあるでしょう。まったく引っ張り癖がないとしても、こちらの意に反して犬が突然逆方向へ行ってしまえばそこで首にショックがかかることもあれば、犬に注意を促すために意図的に人がリードをガン!と引っ張ったりすることもあるでしょう。

以前の藤田りか子さんの記事には、犬が前脚を舐め続けるのはフレキシブル・リードによる首回りの損傷が原因になっている可能性があると書かれていました。それは、首輪にフレキシブル・リードをつけて使うときに生ずるリスクになります。フレキシブル・リードは伸びる長さに制限があるため、伸びきってしまえばそこで犬の首には大きな衝撃がかかります。また、犬が走っている途中に飼い主がストップボタンを押す際にも同様のことが起きます。リードの長さなど気にせず夢中になって走っている犬にとっては、いずれのパターンにおいても予想だにしないタイミングで首に強い衝撃を受けることになるのです。

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しかしたとえ首に強い衝撃が走っても、それを繰り返そうとも、意外に犬自身は気にしていない素振りをするものです。普段の散歩中にリードを引っ張ってゼーゼーなろうとも気にせず、という状況も見受けられます。特に小型犬の場合は思い切りリードを引っ張っても力が弱く簡単に制御できるためか、そのような光景は残念ながら決して珍しいものではありません。

10年ほど前と比べると、首輪ではなくハーネスを使って散歩をしている犬をよく見かけるようにもなりましたが、それはハーネスを使うトレーニングを勧めるトレーナーさんが増えているためかもしれません。もちろん、犬の首の怪我を気にする人が増えたというのも理由の一つにあるのでしょう。

それでもまだ首輪の方がハーネスよりも多数派のように思います。首輪を使うにせよ、ハーネスを使うにせよ、いずれにしても、犬の首にショックがかかりにくい首輪はどんなタイプなのかは知っておきたいところです。犬のさまざまなタイプの首輪において、実際にどのくらいの圧力が首にかかるのかを調べたイギリスのノッティンガム・トレント大学の研究者が主導した研究があるので、こちらに紹介したいと思います。


[photo by RIkako Fujita] ラーチャーカラー(ハウンドカラー)をつけたイタリアン・グレーハウンド。

果たして首輪による差はあるのか?

実験では、中型犬から大型犬の首と同程度の太さがあり、圧力を計測できるパイプに首輪を装着し、次の3通りの力で首輪に対して垂直に引っ張る力をかけました。犬が軽めに引っ張っている状態(40ニュートン)、犬が強く引っ張っている状態(70ニュートン)、そしてジャーク(ガツンと首輪に衝撃を与える、もしくはフレキシブル・リードが伸び切ってガツンと止まるような状態:141ニュートン)です。

実験に使用された中〜大型犬用の7種類の首輪は、ナイロン製の平たいもの、そのパッド付き、ナイロン製の丸まったもの、クッション性の高いスポーツタイプ、前中央部で幅が広い革製のラーチャーカラー(ハウンドカラー)、革とファブリックのコンビのフラットカラー(平たいタイプ)、金属製のチェーンカラーで、さらにもうひとつ、スリップリードという首輪とリードが繋がっている一体型のタイプそれぞれにおいて、首にかかる圧力と首との接触領域とが計測されました。

その結果、40N、70N、ジャークのすべてにおいて、最小で83kPa(40Nでのラーチャーカラー)から最大で832kPa(ジャークでの丸首輪)までの圧力が測定されました。最も圧がかかっていたのはナイロン製の丸い首輪でした。次いで圧がかかっていたのは革とファブリックのフラットカラーでした。逆に最も3つの引っ張りに対して圧がかかっていなかったのはラーチャータイプ、ナイロン製パッド付き、スリップリードで、丸首輪の半分〜3分の1程度となっていました。ただしこれらは形状の違いから、ラーチャーはジャークに対してはかなり圧がかかっていたものの40Nではかなり低く、スリップリードは3種類の圧に対してジャークが最も圧がかかっていたものの、それほど違いはみられず、ナイロン製パッド付きの首輪はこれらの中間くらいの値となっていました。

このように圧のかかり方には有意差がありましたが、すべてのタイプの首輪に犬に怪我をさせる危険性があると研究者らはいいます。その理由として、人の場合、33kPaを超える圧力がかかると、組織の損傷や眼圧の上昇、血管閉塞などをもたらすことが知られているからです。そのため、それよりもはるかに高い圧力がかかれば、たとえ怪我はしなくても、少なからず犬に痛みを与える可能性は高いとしています。また、それが毎日の散歩で積み重なれば、首輪から受ける影響による怪我のリスクは間違いなく高まっていくといっています。

また当然のことながら、首輪の接触面積が小さいものは大きいものに比べて、同じ力がかかったときに面積当たりの圧は大きくなります。その点で、ラーチャーカラーは最も接触面積が大きい形状のため、スリップリードや金属製のチェーンカラーと比べると圧力を分散させる構造となっていることが確認されました。

首輪の形状によって(引っ張る方向にもよりますが)首の中心(喉のあたり)に圧がかかるか、横(側面)に圧がかかるかが異なっていることも示されました。横に比べて中心に圧がかかりやすいタイプの首輪は革とファブリックのフラットカラーと金属製のチェーンカラーでした。喉のあたりにより強い圧が繰り返しかけられると、そのあたりにある甲状腺や血管や神経、咽頭、食道、気管に圧がかかって損傷してしまう可能性が考えられるそうです。

これらのことより研究者らは、首輪を通してある程度の圧力が首にかかれば、どんなタイプの首輪であろうとも犬が怪我をしてしまう可能性が十分にあると結論しています。ただし実際は首輪とリードの角度が鋭角であることが多く(実験では垂直)その場合はどうなるのかという点や、どのくらいの力であれば怪我を引き起こすリスクが低下するのかなどについては今後の研究課題であるとしています。


[photo by Anne Worner

そう、毎日楽しく散歩をするために

反射的、突発的な動きによってリードが張り、ガツンと犬の首に衝撃が加わってしまうのを100%避けることは難しいかもしれません。けれども、日常的に犬の首に負荷がかかる首輪での散歩を続ければ、積もり積もって犬の健康を脅かしかねないことを肝に銘じておく必要があると思います。

ではハーネスを使おう、と考える場合もあるでしょう。しかし、それで首の怪我リスクを回避できるとしても、犬の引っ張り癖がなおるわけではありません。

そもそも犬自身は首輪とハーネスどちらが好みなものなのでしょうか。慣れや好みなど個体差があると思いますが、2016年に発表された研究によれば、いずれを使おうともストレス指標をあらわす頻度に差がなかったことが示されています。犬にとってはどちらも大差ない、ということです。ちなみにこの研究で使われた首輪とハーネスは両方とも裏にフリースの生地がつけられているものでした。

いずれを使用するにせよ、何より危険に感じるのは日常の犬の引っ張りに飼い主が慣れてしまうことです。首輪だハーネスだ、どんなタイプがいい、などというよりもまず、引っ張りのない散歩ができることが重要です。お互いに余計なストレスを感じることなく、愛犬の健康を脅かすこともなく、よりいっそう楽しい散歩時間となるのは間違いありませんから。

【参考文献】

Canine collars: an investigation of collar type and the forces applied to a simulated neck model. Veterinary Record. 2020

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