犬のボディランゲージを読むビデオ・トレーニングは、子どもにも大人にも効果的

文:尾形聡子


[photo by LRD615]

どんな人でも最初は犬の基本的なボディランゲージを「まったく知らない」という状態から犬と交流をしはじめます。とりわけ人生が始まったばかりの小さな子どもたちにとっては、親や周囲の大人たちからのアドバイスが犬とのかかわり方に大きく影響を及ぼすはずです。とりわけ子どもが犬のストレスサインを読み違えてしまったがために起こる咬傷事故を防ぐには、大人が子どもに対して犬を読む教育を丁寧におこなうことが重要となってきます。

しかし、大人だからといって犬のストレスシグナルを正しく読めているとも限りません。また、小さな子どもは犬のボディランゲージをどの程度読めているものなのでしょうか。

英国リンカーン大学の研究者らは、犬のボディランゲージを大人や子どもがどの程度読めているのか、そしてボディランゲージを読むトレーニングがどの程度効果があるのかを調べ、結果を『Frontiers in Veterinary Science』に発表しました。

犬の苦痛や不安のストレスサインを読めるか?

研究者らは、3,4,5歳の子どもとその親を対象に調査を開始。まず最初に参加者は、犬が喜んでいる状態から歯をむき出してうなったり咬みついたりしている状態まで、それぞれの犬の感情状態を段階的にあらわす16本の短い映像を見るところから始めました。そしてその映像に映し出されている犬がどのような状況であるか、「とても幸せ~とても怒っている」まで、子どもでも理解できるよう5段階での評価テストが行われました(子ども124人、親40人)。

その後、同日に、参加者は犬のボディランゲージを理解するためのトレーニングを受けました。トレーニングでも短い映像が使用され、たとえば鼻をなめている犬の姿が映されれば「その犬はなにか心配をしています。そのような場合にはあなたは犬をそっと一人にしておくべきです」といったように、それぞれの犬の行動とその行動の解釈の仕方などが説明されました。このトレーニングを受けた直後にも、参加者は新たな短い映像を見て、犬の感情状態の5段階評価を行いました(子ども121人、親40人)。

さらに子どもは、6か月後(101人)と12カ月後(105人)にも再び映像を見て犬の感情状態の評価を行い、トレーニングの効果が持続しているかどうかも調べられました(親については最初のトレーニング前後のテストのみ)。

[image from Frontiers in Veterinary Science]
研究で使用された犬のストレスや脅威に対する反応の仕方の略図。BSAVA Manual of Canine and Feline Behavioural Medicine, 2nd edition (2009)より。

子どもにも大人にもトレーニングの効果あり

最初の評価テストの結果、歯をむき出してうなるといった強いストレス状態の犬のシグナルを読み間違える割合は、より小さな子どものほうが高いことが示されました。3歳児の53%がその読み間違えをしていて、そのうちの65%が歯をむき出してうなる犬を「幸せ」と回答していたそうです。また、親の17%が犬の強いストレスシグナルを誤って解釈していました。

トレーニングを受けた後の評価テストでは、子どもも親も両方ともに犬のボディランゲージに対する理解の精度が高まっていたことが示されました(親は100%に)。もっとも改善されていたのは強いストレスサインである凝視やうなりなどについてで、年齢の高い子どものほうがより理解が高まっていたそうです。たとえば、トレーニング前のテストでは4歳児の55%しか強いストレスシグナルをただしく理解できていなかったのに対し、トレーニングの後ではその理解は72%にまで向上していました。さらに6か月後には70%、12か月後には76%と、トレーニングを受けた効果が維持されていることもわかりました。3歳児、5歳児も同様にトレーニング後には理解度が高まり、12カ月後にもその理解力を維持していることが示されています。

これらの結果を受け研究者らは、子どもにも大人にも、犬がどう感じているかをただしく解釈するためにはビデオ・トレーニングが有効であることを示唆するものであり、さらに人と犬が交流するうえで咬傷事故の危険性を減らすための有効な手段にもなり得るとしています。

不幸な咬傷事故を防ぐために

今回の研究は、犬を読むトレーニングを受けた後にフォローアップの調査を行っているのがとても興味深いところです。以前「犬の恐怖行動を見極める飼い主トレーニングとその効果」でお伝えした研究では、トレーニング直後の飼い主の状況しか見ていませんでした。

いずれの研究でも、犬を読むトレーニングを受けることで犬のストレスサインを正しく判断できることへつながっていることが示されていますが、今回の研究からは、小さな子どもでも1年という歳月を経てもトレーニングを受けた効果が持続しているところは大いに着目すべき点と思います。

また、大人であってもすべての人が犬の強いストレスシグナルを最初から正しく理解できていたわけではなかったことから、年齢問わず、犬の飼育状況も問わず、このような犬を読むトレーニングを多くの人が受けられる状況をつくることができるといいのではないかと思います。映像を見て学ぶだけでも犬を読む力はある程度つけられるためです。

犬の行動を見誤ることにより招いてしまう咬傷事故は、犬と人、両方にとって不幸なできごとです。犬を読むトレーニングの機会が広く普及していくことを願いたいと思っています。

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【参考文献】

Teaching Children and Parents to Understand Dog Signaling. Front Vet Sci. 2018; 5: 257.

【参考サイト】

University of Lincoln