脂肪腫になりやすい犬のタイプは?

文:尾形聡子

[photo by Ryan Ritchie]

歳をとった犬に現れることの多い、脂肪腫(リポーマ)。

脂肪腫とは脂肪細胞が過剰に増殖してつくられる組織塊で、皮膚の表面(表皮)、その内側の真皮の下にある皮下組織にできやすく、指で触ると弾力を感じられるのが特徴です。皮下組織はその大部分が皮下脂肪により構成されているため、体の中でも脂肪細胞の割合の高い組織といえます。

脂肪腫は良性の腫瘍なので、基本的には犬の健康に影響を及ぼすことはありません。しかし、発生部位によっては歩行を妨げたり、腫瘍が大きくなると神経や臓器を圧迫することもあります。良性の腫瘍とはいえ、いったんできてしまったら外科手術で取り除くしかありません。そのため、愛犬にできてしまった脂肪腫を前に、どうかこれ以上大きくなりませんようにと願う飼い主の方も少なくないことでしょう。もれなく私もその一人です。

犬に比較的多くみられる脂肪腫ですが、その発症原因は分かっていません。また、脂肪腫の発症リスクとなる要因については、これまでに加齢や肥満、メス犬のリスクが高い、犬種ではドーベルマンやラブラドール・レトリーバーがなりやすいとの報告はされているものの、リスク要因についての情報はそれほど多くありませんでした。

そこで、イギリスの王立獣医大学(Royal Veterinary College)の研究者らは、イギリスにおける犬種別の脂肪腫の有病率や危険因子を探し出すために、犬の疫学研究を行うために構築された一般動物病院の診療記録データベース『VetCompass™』を利用し、大規模解析を行いました。そして、その結果を『Canine Genetics and Epidemiology』に発表しました。

脂肪腫発症のリスクファクターを知る

解析対象となったのは、2013年の1年間に215の動物病院に訪れた384,284頭。その間に脂肪腫と診断された犬は2,765頭、割合は1.94%でした。

犬種別にみると、最も脂肪腫を発症していたのがワイマラナー(犬種内の約3%の犬)、次いでドーベルマン(2.6%)、ジャーマン・ポインター(1.97%)、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル(1.96%)、ラブラドール・レトリーバー(1.95%)となっていました。

逆に、発症の最も少なかった犬種はパグで0頭、チワワ(0.07%)、シーズー(0.15%)、ラサ・アプソ(0.15%)、ヨークシャー・テリア(016)という順に。のきなみ小型犬が並ぶ中、唯一、大型犬のジャーマン・シェパード(0.18%)が次いで脂肪腫が少ない犬種になっていました。

[figure from Canine Genetics and Epidemiology]
1年間(2013年)に脂肪腫と診断された犬の頭の罹患率。

ロジスティック回帰という分析方法によるオッズ比(基準となる1に対して疾患へのかかりやすさを示す尺度)では、最も高かったのがドーベルマン(3.55)、次いでワイマラナー(3.16)、ラブラドール(2.19)、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル(2.15)、ビーグル(2.03)となっており、低い方からはヨークシャー・テリア(0.17)、ラサ・アプソ(0.2)、ジャーマン・シェパード(0.21)、シーズー(0.24)、チワワ(0.26)でした。

全体でみると、2,765頭中純血種は2,004頭(72.58%)で、雑種に比べて脂肪腫になりやすいことが示されました。

また、対象となったうちメスは1,310頭、オスは1,455頭で、雌雄・去勢手術の有無でみると、未手術のメスと比べて手術を行ったオスとメスはいずれもリスクが高く、未手術のオスが最も低い結果が示されました。ちなみに手術済みの犬は全体の82%、1,756頭でした。

そしてこれまでの報告のように、年齢を重ねるにつれて脂肪腫を有する可能性が高まり、体重がより重くなればなるほど同様にその可能性が高まっていました。年齢の中央値は約10歳、体重の中央値は26キロとなっていました。

さらにイギリスケネルクラブの犬種グループ別にみると、最も発症が少なかったトイ・グループの罹患率が0.16%だったのに比べ、最も多かったガンドッグ・グループは1.66%、オッズ比ではトイが0.28だったのに比べ、ガンドッグは2.08となりました。

これらの結果を受け研究者らは、脂肪腫の発症のしやすさには犬種差がはっきりとみられることから、犬の健康を改善するための情報として繁殖をする人も、犬を迎える人にも役立てていける情報だとしています。

加齢のサインを見逃さないように

小さいままならば無害とはいえ、愛犬にできものを発見するのは決して気持ちのいいものではありません。できてしまったふくらみは見た目で脂肪腫と判断することはできませんので、そのまま放置せず、必ず動物病院で細胞診を受けるようにしましょう。稀とはいわれていますが、脂肪肉腫という悪性腫瘍の可能性も捨てきれないからです。

脂肪腫は年齢が9歳以上になると罹患率がぐんと高まることが示された今回の結果から、脂肪腫の発症は愛犬が高齢に差し掛かったサインのひとつともいえるでしょう。愛犬にいつまでも元気でいて欲しいと願うのは飼い主の常。ですが、犬も生き物、どうしても加齢に伴い病気を発症しやすくなっていきます。歳をとっても元気に過ごしていけるよう、日々の身体チェック、そして定期的な健康診断を受けるようにしたいですね。

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【参考文献】

Lipoma in dogs under primary veterinary care in the UK: prevalence and breed associations. Canine Genetics and Epidemiology20185:9