文:尾形聡子
[photo by Ryan Ritchie]
歳をとった犬に現れることの多い、脂肪腫(リポーマ)。
脂肪腫とは脂肪細胞が過剰に増殖してつくられる組織塊で、皮膚の表面(表皮)、その内側の真皮の下にある皮下組織にできやすく、指で触ると弾力を感じられるのが特徴です。皮下組織はその大部分が皮下脂肪により構成されているため、体の中でも脂肪細胞の割合の高い組織といえます。
脂肪腫は良性の腫瘍なので、基本的には犬の健康に影響を及ぼすことはありません。しかし、発生部位によっては歩行を妨げたり、腫瘍が大きくなると神経や臓器を圧迫することもあります。良性の腫瘍とはいえ、いったんできてしまったら外科手術で取り除くしかありません。そのため、愛犬にできてしまった脂肪腫を前に、どうかこれ以上大きくなりませんようにと願う飼い主の方も少なくないことでしょう。もれなく私もその一人です。
犬に比較的多くみられる脂肪腫ですが、その発症原因は分かっていません。また、脂肪腫の発症リスクとなる要因については、これまでに加齢や肥満、メス犬のリスクが高い、犬種ではドーベルマンやラブラドール・レトリーバーがなりやすいとの報告はされているものの、リスク要因についての情報はそれほど多くありませんでした。
そこで、イギリスの王立獣医大学(Royal Veterinary College)の研究者らは、イギリスにおける犬種別の脂肪腫の有病率や危険因子を探し出すために、犬の疫学研究を行うために構築された一般動物病院の診療記録データベース『VetCompass™』を利用し、大規模解析を行いました。そして、その結果を『Canine Genetics and Epidemiology』に発表しました。