ハスキーのブルーアイ、遺伝子背景解明へ

文:尾形聡子

[photo by Brett Levy]

青い目を持つ犬種の代表格ともいえる、シベリアン・ハスキー。これまで犬のブルーアイは特定の毛色とリンクしてあらわれることが分かっていましたが、ハスキーのブルーアイはそれとは異なると考えられており、長年その遺伝的な要因については謎のままでした。

犬はもとより人の青い目の遺伝子背景が解明されたのもわずか10年ほど前のこと。メラニン産生に関わる遺伝子OCA2の活性化に関与するHERC2遺伝子に変異が起き、OCA2の働きを抑制しているだろうことが分かったのです。そのため本来ならブラウンやヘーゼルといった瞳の色になるところが、メラニン色素の産生量が減ってしまうためにブルーの瞳になると考えられています。ただし、青い目を作る遺伝子変異はHERC2だけではなく他の遺伝子変異の影響もあるだろうと考えられていますが、現在のところはここまでしかわかっていません。

瞳の色も毛色や皮膚の色も、メラニン色素によりつくられている

犬においては特定の毛色とブルーアイとが関連していることが示されています。不規則な大理石のような斑模様を持つマールという毛色と、ホワイト・スポッティングと呼ばれる白斑が体のほとんどを占めるような毛色(つまり、全身ほぼ真っ白)の場合、両目ともブルーアイになる、または片目だけブルーアイになることがあるのです。ブルーアイを持つ犬種には、オーストラリアン・シェパードやボーダー・コリー、シェルティー、ウェルシュ・コーギー・カーディガン、グレート・デーン、ダルメシアンなどがいます。

また、完全なるアルビノ個体はメラニン色素が作れないため瞳の色が赤くなります。瞳に走る血管が透けて見えるためです。しかしホワイト・ドーベルマンのようにわずかにでもメラニン色素を作れるタイプのアルビノの場合には、瞳の色がブルーになることがあります。

そもそも瞳の色(虹彩)は毛色や皮膚の色などと同様にメラニン色素が沈着することでつくられているため、体色は場所こそ違えど何らかの関連性が出てきやすいものです。しかしハスキーは、マールやホワイト・スポッティングとはまったく関係のない毛色であることから、それらとは違う遺伝子背景が存在しているはずだと考えられていました。

遺伝形式も異なり、ハスキーでは一般的に優性遺伝をするだろうといわれています。一方、マールやホワイトスポットの場合ではブルーアイは劣性の形質と考えられています。マールやホワイトスポットの毛色そのものは不完全優性の遺伝形式をとるため、個人的には人のOCA2遺伝子に対するHERC2遺伝子のように、それぞれの遺伝子に対してモディファイヤー(変更遺伝子、修飾因子などともいいます)として働きかける別の遺伝子の存在があるのかもしれないとも推測しているところです。

[photo by Brianna Hager]
マールの毛色、片方の眼だけブルーアイのオーストラリアン・シェパード。両方の瞳の色が違うことを、一般的にはバイアイ(bi-eye)、オッドアイ(odd-eye)などとも呼ぶ。

哺乳類の目の発達に欠かせない遺伝子ALX4とブルーアイとの関連性が示される

アメリカにある世界屈指の研究所であるコールド・スプリング・ハーバー研究所が運営する電子アーカイブシステム『bioRχiv』にて公開された研究によりますと、ハスキーのブルーアイ(両眼ともにブルー)またはバイアイ(片眼がブルー)は犬の18番染色体上にあるALX4遺伝子の上流にある塩基配列の重複(反復配列)と関連性があることが示されたそうです。ALX4遺伝子はホックス遺伝子と呼ばれる生物の形態形成(前後軸や体節)に関わる遺伝子群のひとつで、目の発達形成に欠かせない遺伝子として知られています。

研究者らは6,092頭のさまざまな犬について行われたゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータを対象に、オンライン上で飼い主から犬の瞳の色についての回答を依頼。得られた3,248頭分の回答のうち、いずれか片方はブルーアイの犬は156頭(両眼がブルー73頭、片眼がブルー83頭)いて、全体の5%ほどでした。ちなみにこのブルーアイには、マールなどの毛色の犬も含まれています。

瞳の色がわかる犬、3,180頭分を対象にGWASのデータ解析を進めると、ブルーアイと関連する領域が18番染色体上にあることが示されました。そこにある塩基配列の重複領域の前後にはALX4遺伝子ともうひとつ別の遺伝子が存在しているのですが、その遺伝子は眼の色や眼球形成にはまったく関係のない遺伝子だったため、研究者らは重複領域はALX4の遺伝子発現を制御している可能性があると考えたのです。

また、2,912頭の純血種を対象に18番染色体上の重複領域があるかどうか解析したところ、全体のおよそ2%(63頭)が重複領域を持つ染色体を1本は持っており、そのうちの90%がハスキーであることがわかりました。その他の犬種では、ハスキーの血の入っているクリー・カイ(2頭)、オーストラリアン・シェパード(3頭)、ジャーマン・シェパード(1頭)にもみられました。しかし、重複領域を持つ染色体をもつシェパードとハスキーのうちの2頭はブルーアイではなく、ブラウンの瞳の個体でした。

これらの結果から研究者らは、ハスキーにおいて重複領域が存在する染色体の浸透度はかなり高いが完全ではないこと、さらに重複領域を持っていてもブルーアイにならない個体もいることから、モディファイヤーとなる遺伝子の存在の探索や、ALX4遺伝子がどのようにブルーアイを作り出すのかという機能的な部分についてのさらなる研究が必要であるとしています。

[photo by s k]
瞳の色が違うハスキーたち。

同じ青い目を持つにいたる遺伝背景が違う

これまでに分かっていたマールなどの毛色と関連するブルーアイではなく、ハスキーでは別の遺伝子の働きが影響してブルーアイとなっていることがようやく科学的に示されました。瞳のメラニン色素が薄いためにブルーになるという見た目の状態は同じですが、原因となる遺伝子が何かによって瞳の色以外の部分に出てくる影響も異なってくるのを知っておくことは大切だと思います。

ダブルマール(ダブルダップル)や全身ほぼ白斑でおおわれる犬はブルーアイになることがあります。そしてブルーアイと病気との関連性は確実に明らかにはされていないものの、視覚や聴覚などに先天性の問題を抱える可能性が高まることは多くの研究により示されてきています。一方ハスキーの場合、ブルーアイであるからといって、ダブルマールやハルクインなどに見られるような健康への悪影響が同様にして起こるわけではありません。なぜならこれまでにそのような健康面での報告はされていませんし、原因となる遺伝子が異なることも今回の研究により示されたからです。

また、ダブルマールになればブルーアイになる可能性は多少高まるでしょうが、ダブルマールでもブルーアイでなければ健康問題が起こらないかといえば決してそういうわけでもありません。そして、ブルーアイをしたマールの健康な犬も多く存在しています。

ブルーアイであることと毛色とをしっかり区別して考えないと、たとえばダブルマールの生まれる可能性があるマール同士の交配は禁忌である、ということの延長上であるかのように、ブルーアイ同士のハスキーの交配は問題ありなのでは?といった考えへと飛躍してしまう恐れもあると思います。

遺伝子のすべてがわかっているわけではないですし、生き物なので100%確実だと言い切れることではないのですが、少なくともこれまでに遺伝子レベルで明らかにされた科学的情報から、実際に気を付けるべき部分はどこなのか、逆に問題のない部分はどこになるのか、をある程度はハッキリさせていくことができると思います。青い目という見た目上の共通点があっても、必ずしも遺伝的バックグラウンドは同じではなく、体の他の部分に出てくる影響も異なるというようなことは、瞳の色に限らず起こっていることです。

少し話がそれてしまいましたが、今回のハスキーのブルーアイをつくる遺伝背景がやっと解明されはじめたことを受け、こんなことを考えるに至った次第です。

【参考文献】

Direct-To-Consumer DNA testing of 6,000 dogs reveals 98.6-kb duplication causing blue eyes and heterochromia in Siberian Huskies. bioRχiv. 2018.