犬の呼び戻しトレーニング失敗 – じゃ、電気ショック・カラー使う?

文と写真:藤田りか子

ラッコの呼び戻しについてのトレーニングを3年前2回にわたってブログにした。さて、そのトレーニング結果は果たして?ここに後日談として告白を。悲しいかな、シカを追いかけているラッコの呼び戻しは成功には至らなかった。というか一度シカのにおいを取り始め走り出したら、どうやっても無理なのであった。アメリカではこのような猟欲の強い犬をしつけるためにショックカラーを使ったりするようだ。が、たとえ効果があっても私はショックカラーまで使いたくない(もっともスウェーデンでは違法行為、販売されてない)。いやこれは感情論だけに基づくものではない。現在学術的にもその効果については疑問視されている。さらにアニマル・ウェルフェアに関わる問題とも指摘されているのだ。

今年ヨーロッパ獣医医療行動学会が電気ショックによるトレーニングについての良し悪しについて考察を行った。そこで研究者たちは「電気ショックを使った方がトレーニングがより効果的になるという証拠はなく、むしろ犬にネガティブな結果を招く方が多い」と述べている。さらに学会は、ヨーロッパで電気ショックカラーの使用を許可している国へ、これらトレーニング・ツールを違法にすることを呼びかけた。

電気ショック・トレーニングの一番難しい部分は、電気ショックがやってくる因果関係をたいていの犬はよく理解できないという点。結局恐怖を感じるだけに終わってしまうということだ(その恐怖感から攻撃的になる個体もいる)。これは犬に多大なストレスを与えることになり、まさにウェルフェアに関わる点ともなる。以前呼び戻しを聞かないビーグルと電気ショック実験の話を紹介したが、そこでも同じ結論が述べられていた。

「人の言葉を無視して走った→電気ショックが来る」というのは人から見れば簡単な連想に思える。が、犬からすると電気ショックの到来が自分の行動と関係がある、というのは必ずしも自明の理ではないようだ。犬は電気ショックを、むしろその時にいた「環境」と結びつけるかもしれないし、あるいはその時周りにいた「トレーナー」もしくは「飼い主」と結びつけるかもしれない。そう、犬は何をもって電気ショックと連想しているのかわからない。私の友人であるトレーナーも

「犬というのは常に人と何かをするという動物ですから、電気ショックを感じると、その時にいた「人間」と結びつけようとすることがあります。そうすると、犬と人の信頼関係は損なわれてしまいますよね」

私の知人は、電気ショックカラーではないが、リモート・コントロールのボタンを押すと、首輪からレモン水がシュッとスプレーされるトレーニング・ツールで呼び戻しトレーニングを試みた。が、彼の愛犬は飼い主がそのレモン水を自分にかけたと思ったらしく、かえって彼から走り去って逃げ回ったという。

ラッコの呼び戻しの話に戻るが、私はこれ以上悪あがきをやめることにした。その決心に至ったのは、スウェーデンでとても有名なドッグトレーナーであるエヴァ・ボッドフェルトさんが我が家を訪れてラッコと接した時にかけてくれた言葉である。

「犬そのものを認めてあげることも大事よ」

ラッコの行動について恥ずかしい気持ちもあったり、あるいは彼に対してイラつく感情もあった。しかしその悶々としたものが、エヴァさんの言葉を機にふっと消えた。そうだ、ラッコはラッコなんだ。「彼を直したい、直したい」とネガティブな気持ちを溜めるよりも、愛犬の難しい部分と上手に共生する、というのも時にオプションとしてあってもいいのではないか。私がノーズワークというスポーツに飛びついたのはその時であった。呼び戻しが100%ではない以上、彼を森に自由に放して遊ばせることはほとんどできない。その罪償いとして、彼の犬生に何か別の形で意義あるアクティビティを与えようと思った。

その後ラッコのノーズワーク才能は花開き、私と彼がトレーニングと競技会を大いに楽しんでいるのは「犬曰く」読者の皆さんならご存知のことだろう。ノーズワークをやっている間は私とラッコは本当に一つのチームとなる。ラッコは私に頼り、私はラッコに頼る。方法はなんであれ、こんな素敵な体験を彼の犬生の中でいっしょにできたことにすごく感謝をしている。田坂広志著「未来の君たちへ」に出ていた以下の名言を思い出した。

人生において、「成功」は約束されていない。しかし、人生において、「成長」は約束されている。

田坂広志著 未来を拓く君たちへ

そして呼び戻しトレーニングでつかったロングリードトレーニングについてのブログ(その1その2)を読まれた人、ラッコで効果がなかったからといって、決してこの訓練方法の可能性を捨てないでほしい。ラッコはシカのにおいをとったら何も聞こえない状態となるが、そのほかの機会では呼び戻しはとても向上している。それもこれもロングリードのおかげだ。そして今でも森を歩くときはロングリードを時々使い、彼に周りを散策する自由を与えている。向こうからサイクリストが来れば、その時こそ「呼び戻し」ですぐに横につけることもできるのだ。

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【参考文献】

Electronic training devices: Discussion on the pros and cons of their use in dogs as a basis for the position statement of the European Society of Veterinary Clinical Ethology
In recent years, the affirmation of a greater ethical sense and research generating a better knowledge of the mechanisms of animal learning, evidence …