文と写真:藤田りか子
ラッコ、アメリカとスウェーデンを嗅ぎ分けられるか?!
北欧の方法?
ノーズワークには北欧のやり方とアメリカのやり方がある、という説が日本で流れているそうだ。ある出版社の編集者の方にノーズワークのやり方について説明をした。すると「では北欧では、というふうに前置きをして書いてもいいですか?」と問われた。そのほかにもいくつかの機会で北欧とアメリカの違いについて聞かれたことがあった(私は北欧でノーズワークをやっているからだ)。
アメリカと北欧…、やり方に違いはほとんどないと思う。何しろ、ターゲットとなるにおいを探すスポーツという点では一致している。その意味では「麻薬探知犬」と同じことをやっていると言ってもいいだろう。世界中に麻薬探知犬とそのトレーナーがいるわけだが、この目的に到達するための練習方法は各国であるいは各トレーナーで違いがあるかもしれない。が、最終目標は同じで麻薬のありかをハンドラーに知らせること。ノーズワークも同様だ。ターゲットとなるにおい(アロマ)のありかをハンドラーに知らせること。北欧とアメリカが大きく異なる部分は、ターゲットとなるアロマの種類だ。これは麻薬探知犬とノーズワーク犬がやはり違うにおいのターゲットを探すことにも喩えられる。
それからアメリカのノーズワークは「トリーツを探すスポーツ」と誤解している人も多いようだ(と実際に何度かそう聞かれた)。が、アロマを探す、というユニークな案を作り出したのはアメリカである。アメリカからこのスポーツが北欧に導入される前まで、スウェーデンでは調味料に使われるハーブや紅茶の葉を使って、家庭アクティビティとして遊んでいたぐらいだ。
もっともノーズワークの定義にもよるだろう。ここがややこしい。アメリカやヨーロッパのケネルクラブにおける競技会スポーツとしてのノーズワークに関しては、アロマをターゲット臭として使う。一方で競技会には関係なく、犬のメンタル・トレーニングのためのノーズワーク、と言うのもある。アロマからトリーツを探すことまで、とにかく嗅覚を使う遊びなら、全てこのカテゴリーに入って来るものとする。アメリカから「ノーズワーク」と言うスポーツが入って来る前のスウェーデンでは、特定の臭気を探すトレーニングや競技を「スペシャル・サーチ(Specialsök)」と呼んでいた。このトレーニングには麻薬探知犬やガン探知犬などが含まれる。現在のスウェーデンのノーズワーク・ジャッジはスペシャル・サーチの分野からやってきている人が多い。
トレーニング方法は様々で当然
北欧とアメリカではノーズワークのトレーニング方法が違うと理解されている節もあるのだが、実はアメリカ国内でも、トレーニング方法は多種多様。トリーツを箱に入れてまず「探す」という行動を学習させるところから入り、トリーツとアロマの匂いを「ペアリング」させるという方法が一つ。他にもスメラーを使う方法(最初に犬にさがすべきにおいをにおわせ、その後犬をサーチに出す)、そしてラインアップ(アロマの入った容器と空の容器を並べて犬が正しい容器を選んだところでご褒美)に至るまでと、とにかく「におい」を覚えさせるには、様々な方法がある。
それだけにアメリカ国内ではトレーニング方法についてディベートも盛んだ。どこのウェブ・フォーラムだったか覚えていないのだが、いくつかのサイトで見たことがある。いわば、「シーザー・ミランのやり方を支持する人vs支持しない人」の討論に似たものかもしれない。かなりヒートアップしている。アメリカのノーズワーク・トレーニング方法を分類しているサイトを見つけたので、こちら(ただし英語)も参考に見られたい。
色々なトレーニング方法があるという点で、ノーズワークも他のドッグスポーツと何ら変わりがない。アジリティやオビディエンス、フィールドトライアルにおいても、トレーニングの方法は千差万別。どれがいいのか、は犬の性格や自分の好み次第ということだろう。そしていろんな方法を知っていればいるほど、トレーナーとしての自分の引き出しも増える。