文:尾形聡子
人が考えごとをしているときのポーズというと、どんなものを思い浮かべますか?
腕を組んだり頬杖をつきながら、首をかしげている様子を想像する方がほとんどではないかと思います。犬も首をかしげることがありますが、それは人のように考えごとをしている時ではなく、多くは私たちが犬に話しかけるときに見られるしぐさです。しかし、すべての犬が私たちの話を聞くときに首をかしげるわけでもありません。数々の犬に関する著書が日本語に翻訳されている心理学者のスタンレー・コレン博士が、犬が首をかしげる理由について『Psychology Today』で面白い考察をしていましたので紹介したいと思います。
犬が首をかしげながら我々の話を聞く理由を、片方の耳でより人の話をクリアに聞きとるためではないかと考える人や、犬が首をかしげる姿を見た人は、それを可愛いと感じて笑顔になったり何かしらの報酬を犬に与えたりするために、犬はそれを社会的シグナルとして認識しているのではないかと考えている人もいるそうです。これらは聴覚的な問題または、社会的なコミュニケーションという観点から首をかしげるという考え方ですが、コレン博士は視覚的なものと関係するのではないかと考えました。
その理由を次のように説明しています。まず、自分自身に犬のマズルがあることを想像してみてください。その感覚をつかむには、握った手を自分の鼻先にあててみると、その辺りの視界がぐっと遮られることがわかります。握った手を鼻にあてたまま人と向かい合うと、見えにくくなる部分がちょうど相手の口元あたりになります。さらにその状態で首をかしげると、見えにくくなる口元部分が見えるようになります(手を鼻に当てた状態が分かりにくい場合は、参考サイトにイラストがありますのでそちらをご覧ください)。
犬は人の表情を見てそこから情報を得ようとするため、マズルに隠れて見えにくくなる口元を、首をかしげることで見ようとするのではないか、という考えです。しかし、長頭種や中頭種はマズルに長さがありますが、短頭種にはこれが当てはまりません。そこで、博士はインターネット調査を行い、この頭部の形態の差が首をかしげることと関連性があるのかどうかを調べました。
犬が首をかしげる頻度を6つに分けて(まったくしない、めったにしない、場合によって、しばしば、たいていの場合、いつも)、犬に話しかけるときにどんな頻度で首をかしげているか582人に調査を行ったところ、そのうちの62%の人が”しばしばする~いつもする”と答えたそうです。さらに、長頭種と中頭種グループと短頭種グループに分けて解析したところ(調査に参加したうちの186人の犬が短頭種)、長頭種&中頭種グループでは71%、短頭種グループでは52%が、話しかけるときに犬がよく頭をかしげると答えたそうです。
この結果から、2つのグループには有意差はみられ、明らかに長頭種&中頭種グループの方が首をかしげる割合が高いことが分かりました。しかし、短頭種でも52%と半数の犬が首をかしげている結果について博士は、マズルが短くてもある程度は視界をさまたげている可能性があるためだろうとしています。いずれにしてもこの調査結果から、犬に話しかけたときに犬が首をかしげる理由のひとつが、”視覚的な問題を解決するため”であることを示唆するものであると博士はいっています。
みなさんの愛犬は首をかしげながら話を聞きますか?
(本記事はdog actuallyにて2013年12月19日に初出したものを一部修正して公開しています)
【参考サイト】