純血種の犬の方が雑種犬よりも遺伝病にかかりやすいのは本当か?

文:尾形聡子

[photo from UC DAVIS News and Information]

純血種の犬は、同一犬種内での繁殖が繰り返されているために遺伝子プールが狭くなり、遺伝病が蔓延しやすいという認識があると思います。特定の犬種にのみ発症する遺伝病や、特定の犬種にとりわけ多く発症する遺伝病は存在していますが、犬を純血種と雑種犬とに分けて遺伝病の発症率を比べた場合、果たして遺伝病にかかる傾向が高いのは純血種なのでしょうか。

アメリカのカリフォルニア大学デイビス校の研究者らは、1995年から2010年の間に大学の動物病院にかかった90,000頭以上の犬のデータを解析したところ、そのなかの27,254頭の犬に、24の遺伝病のうちのひとつまたはそれ以上の症状が出ていることが分かりました。24の遺伝病は犬全般に発症しやすいものであること、そしてさまざまな器官のさまざまな病気がふくまれていたことから、研究者らはそれら24種類の遺伝病を対象に、罹患した純血種と雑種の年齢、体重、性別を含めて解析を行い、結果を『Journal of the American Veterinary Medical Association』に発表しました。

対象とされた24疾患は以下になります。
血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫瘍、骨肉腫、大動脈弁狭窄、拡張型心筋症、肥大型心筋症、僧帽弁異形成、動脈管開存、房室中隔欠損、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、甲状腺機能低下症、肘関節形成異常、股関節異形成、椎間板疾患、膝蓋骨脱臼、前十字靭帯断裂、アトピー性またはアレルギー性皮膚炎、鼓脹症(胃拡張胃捻転症候群)、白内障、てんかん、水晶体脱臼、門脈体循環シャント。

解析の結果、24の遺伝病のうちの13疾患(股関節異形成、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、水晶体脱臼、膝蓋骨脱臼など)は、純血種にも雑種にもほぼ同様に発症していました。また、10疾患(拡張型心筋症、肘関節形成異常、白内障、てんかん、甲状腺機能低下症、鼓脹症(胃拡張胃捻転症候群)など)については純血種に多くみられ、前十字靭帯断裂は雑種に多くみられたそうです。

またデータからは、異なる犬種であっても祖先に同じ血統が入っている場合には同じ遺伝性疾患を発症しやすいことが示されました。たとえば、肘関節形成異常を発症しやすい犬種トップ5の中の4犬種はバーニーズ・マウンテン・ドッグ、ニューファンドランド、マスティフ、ロットワイラーであり、これらの犬種は祖先のどこかでマスティフ系の血統が入っているとされています。つまり、共通する祖先から伝えられた遺伝子変異を、現在も持ち続けている可能性があることが示唆されたということです。

遺伝病は、たった一つの遺伝子変異によって発症する場合もあれば、いくつかの遺伝子変異に環境要因も重なって発症する場合もあります。大前提として、繁殖の現場で遺伝病を減らしていこうとする努力が、犬たちの健康を守るためになくてはならないことと思います。また、純血種が雑種と比べてあらゆる遺伝病にかかりやすいわけではないという結果が示されたのは、むしろ、純血種に広がっている遺伝病が同じように雑種にも広がっている結果かもしれないとの見方もあるかと思います。人の手で防げるものは防いでいくという努力をたゆまずにしていくことで、多くの犬に健康がもたらされることを願っています。

(本記事はdog actuallyにて2013年6月6日に初出したものを一部修正して公開しています)

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【参考サイト】
UC DAVIS News and Information