文:尾形聡子
もともとは長かった鼻が短くなるように人が選択繁殖していった結果、極端に短い鼻を持つようになった短頭種の犬たちは、その骨格の変化に伴って呼吸が困難になったり熱放散がしにくくなったりといった特有の健康問題を抱えるようになりました。それらの健康問題は短頭種にとって、はたして “正常”なことなのでしょうか?イギリスの王立獣医カレッジ(ロンドン大学)の研究者らは短頭種の犬の健康と飼い主の意識調査をした結果を『Animal Welfare Journal』に発表しました。
短頭犬種は、気道閉塞症候群(brachycephalic obstructive airway syndrome:BOAS)と呼ばれる鼻孔狭窄症や軟口蓋過長症などいくつもの病気が合併して起こる、上部気道が閉塞する疾患に罹る可能性が高いとされています。雑音が混ざった苦しそうな呼吸、短い散歩でも呼吸困難になったり体温が急上昇するといった症状が見られます。適切な治療を受けずにいると悪化していき、酷いケースになると、常に呼吸困難な状態になって酸欠のために倒れることもあるといいます。
調査の対象となったのは、パグ、ブルドッグ、ペキニーズ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、ボルドー・マスティフ、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルとこれら短頭種のミックス犬たち285頭とその飼い主。そのうちの31頭の犬が、気道閉塞症候群に罹っていると診断されました。また、犬の重度な臨床的兆候と、飼い主の犬の呼吸問題に関する認識不足とに大きなかかわりがあることが分かったそうです。
気道閉塞症候群に罹っているすべての犬はいびきをかき(罹っていない犬は2%未満)、3分の2の犬が日々の運動で呼吸困難を示すということが飼い主への調査で明らかになりました。にもかかわらず、気道閉塞症候群に罹っている犬の飼い主の58%が、現在も過去にも犬に呼吸問題はないと述べていました。
気道閉塞症候群に罹っている犬の飼い主の半数以上が、犬の慢性的な呼吸問題を問題として認識していなかったことについて、研究者は、短頭種の飼い主は短頭種に起こりがちな呼吸障害の兆候を”正常”として片づけてしまい、大目に見てしまっていることを示す結果だといっています。短頭種の呼吸問題はあまりにも一般的に見られるために、ある意味”正常”だと考えられてしまいがちなのかもしれません。
気道閉塞症候群に罹ると、犬が犬として楽しんで生活するための運動や遊び、食餌、睡眠などが充分にできなくなってしまう可能性が高まる、つまり、病気が酷くなればなるほど犬たちの QOL (生活の質)は低くなっていきます。それが飼い主の、犬の病気やその症状についての情報や認識不足から起きているケースは、ここ日本でもあると思います。ブリーダーの方々が、短頭種の健康を取り戻す方向への繁殖を考えていくことはもちろんですが、今を生きている犬たちの健康を守っていくには、飼い主側の意識を高めていくことがとても大切です。そしてそれが、将来産まれてくる犬たちの健康促進へも繋がっていくのではないかと思っています。
(本記事はdog actuallyにて2012年5月24日に初出したものを一部修正して公開しています)