気づいて欲しい犬の大腸炎

文と写真:アルシャー京子

今回は「粘液混じりのウンチ」をテーマとして取り上げよう。

※お食事中の方、ごめんなさい。(食事しながらこれを読んでいる人も少ないとは思うけど)耐えられる方だけ先に進んで下さい。

「普段は元気なんだけど、ときどきゼリー状のものがウンチに混ざる」あるいは「ウンチがゼリー状の粘液に覆われている」これって一体?

硬さに多少の変化は見られるものの粘液以外の症状が体に見られないことから、つい重要視しない飼い主さんが多いこの症状は典型的な「分泌性大腸炎」である。

疾患名を聞いてしまうとなんだか怖い気がする、かもしれない。

腸内に取り込まれた食物は胃や小腸などの長い道のりを経て最終的に大腸に辿り着く。辿り着いた食物は大腸で水分が吸収され、その吸収度合いによってウンチの硬さが決まってくる。もしもここで何らかの原因において食物が大腸を素早く通り過ぎてしまう場合や、大腸に留まるも吸収が行われないような状況にある場合、ウンチは軟らかくなるのだ。

大腸が正常に働くため、そこには食物との浸透圧の関係や分泌性、透水性そして蠕動運動への作用性などいくつかの因子が関係してくる。いいウンチとはこれらの絶妙なコンビネーションによるひとつの作品なのだ。そう思うと、ウンチも何だか輝かしく見えてくる(それは私だけか?)。

大腸に関わる因子が小腸と似ているため、愛犬が下痢をして多くの場合は腸炎(小腸の炎症)と診断されがちなこの疾患。実は症例の約半数近くまでが大腸炎であるという。

下痢を引き起こす小腸と大腸における炎症(腸炎)の原因はこんなにある。小腸性腸炎では脱水症状や電解質の喪失・体重減少が見られるが、大腸性腸炎ではこれらは見られず臨床的にも一見健康そうなのが特徴。

ここで冒頭の「分泌性大腸炎」について話そう。

大腸炎の中でも分泌性大腸炎は、直接的には小腸から流れてきた消化物により大腸粘膜が局所的に刺激されることで起る。これはそもそもは小腸内で起った吸収不良により腸内細菌バランスが崩れた結果である。

大腸粘膜が刺激されると粘液が出る、これは鼻水と同じ要領であると言えば分かりやすいだろう。

粘液混じりのウンチでも硬さがある程度保たれているならば深刻に考えることはない。これにより体が急激な危機にさらされると言うことはないので、とりあえずは食餌中の脂肪分を減らして様子を見よう。

ウンチが軟らかめであるときは体の水分摂取に気を配り、また小腸性腸炎との併発が考えられるのでその日は無理せず少しだけ塩分を加えた鶏ガラスープでお腹を休ませよう。できるならばそこにカモミールを加えて炎症を鎮めることも私はおすすめしたい。その後の食餌はもちろん脂肪分を抑えたできるだけ消化しやすいもの(白飯と鶏肉など)を2-3日続け、そして徐々に普通の食餌に戻してゆくとともに食材の見直しもしてみよう。

しばらくの間は食物繊維の種類を野菜類(セルロース)からリンゴ(ペクチン)に変えるのもいいし、腸内細菌のバランスをとるため少量のヨーグルトをおやつとして与えるのもいい。

しかし、もしも食餌内容に心当たりがなく急に緩いウンチが続いたりしぶりが見られる場合には、迷わずかかりつけの獣医さんで寄生虫検査を含んだ適切な診断・処置をしてもらうことが優先であることは忘れずに覚えておいて欲しい。

(本記事はdog actuallyにて2009年3月20日に初出したものをそのまま公開しています)