文:尾形聡子

[photo by Lana Kray]
肥満が全身の健康にさまざまな影響を及ぼすことは、すでによく知られています。関節、心臓、代謝、ホルモンバランスなど、体重の増加は体のあちこちに負担をかけますが、「目」はどうでしょうか。2026年に発表された研究では、健康な犬において、肥満と眼圧が関連している可能性が示されました。
人では以前から、肥満や高BMI(ボディ・マス・インデックス)と眼圧上昇の関連が報告されています。しかし、犬でこの関係を検討した研究はこれまでほとんどありませんでした。
今回の研究では、健康な犬40頭(さまざまな犬種、雑種)を対象に、9段階評価のボディコンディションスコア(BCS)、犬版のBMI、体脂肪率、眼圧を測定し、それらの関連が解析されました。
その結果、BCSが高い犬ほど眼圧が有意に高いことが示されました。
- BCSが1ポイント上がるごとに眼圧は約9mmHg上昇
- 過体重〜肥満群の眼圧中央値は3mmHg
- 痩せ型〜標準体型群は7mmHg
一般に犬の眼圧は10〜20mmHg程度が標準的とされ、25mmHgを超えると緑内障が疑われます。今回の結果はいずれのBCSであってもその診断基準には達しておらず、正常範囲内でした。ただし、体型により平均で6.6mmHgもの差があったのは決して小さいものではありません。
眼圧と緑内障の関係
眼圧とは眼球の内部にかかる圧力のことで、眼の内部を満たす「房水」という液体の産生と排出のバランスによって決まります。房水は毛様体で産生され、前房を通って排出されます。
犬では、線維柱帯(せんいちゅうたい)、毛様体裂隙(けいようたいれつげき)、角膜隅角(かくまくぐうかく)、隅角房水叢(ぐうかくぼうすいそう:ヒトのシュレム管に相当)などが排出経路として機能し、眼圧を調整しています。これらの排出がうまくいかなくなることで眼圧は上昇します。
房水の排出がうまくいかず眼圧が上昇すると、視神経がダメージを受けることになります。すなわち、「緑内障」です。犬の緑内障は、眼圧上昇に伴う視神経障害と定義されます。
重要なのは、「眼圧が高い=すぐに緑内障」というわけではないという点です。しかし同時に、眼圧は緑内障における最大の修正可能なリスク因子でもあります。
緑内障には原発性と続発性があります。原発性緑内障は遺伝的要因が関連すると考えられており、中でも、原発閉塞隅角緑内障が犬に一般的に発症するものとして知られています。犬の原発性緑内障の多くは、隅角の形成異常などの構造的異常が主因とされています。続発性緑内障は、白内障やぶどう膜炎、水晶体脱臼、眼内腫瘍など別の疾患があり、それにより二次的に引き起こされるものです。
今回の研究は、肥満が直接緑内障を引き起こすことを示したわけではありません。しかし、肥満体型が眼圧を押し上げる可能性を示したことは、緑内障リスクを考えるうえで見逃せないことといえます。房水の排出経路に明らかな構造異常がなくても、眼圧が持続的に高い状態が続けば、視神経に負担がかかるかもしれないからです。

[photo by Kate]
なぜ肥満で眼圧が上がるのか?
では、なぜ体脂肪が増えると眼圧が上がる可能性があるのでしょうか。これまでの人を対象とした研究では、いくつかの仮説が示されています。
ひとつは、眼の周囲に蓄積する脂肪組織が強膜の静脈圧を上昇させるという説です。房水は最終的に静脈系へ排出されるため、静脈圧が高まれば排出がわずかに妨げられ、眼圧が上昇する可能性があります。
もうひとつは、代謝や血流の変化です。肥満に伴う血圧変動やインスリン抵抗性、血中脂質の上昇などが、房水産生や排出に影響を及ぼす可能性が考えられています。
今回の犬の研究でも、体内の脂質代謝や肥満の調整因子として知られるトリグリセリド(中性脂肪)、レプチン、非エステル化脂肪酸は過体重群で高値を示し、眼圧とも正の相関がみられました。ただし、BCSで補正すると、その関連は消失しました。このことは、各代謝マーカーよりも、体脂肪量そのものが眼圧により強く関係している可能性が示唆されたといえます。
とはいえ、これはあくまで相関です。肥満が直接房水動態を変化させるのか、あるいは何らかの因子が存在するのかについては、まだ明らかになっていません。
犬の緑内障治療の中心は「眼圧を下げること」です。眼圧は、現在のところ唯一の確実な修正可能リスク因子とされています。視神経は一定の眼圧に耐えることができますが、耐性には個体差があります。ある犬にとっては問題のない圧でも、別の犬では徐々にダメージが蓄積する可能性があります。たとえば、もともと隅角が狭い犬、犬種的に緑内障リスクが高い犬においては、わずかな眼圧の差が長期的な影響を及ぼしやすくなる可能性は否定できません。
ここで整理しておきたいのは、犬の原発性緑内障の多くは解剖学的な排出障害が主因であるという点です。人においては生活習慣因子の関与が示唆されていますが、犬では解剖学的な排出障害が主因のため、肥満が単独で緑内障を引き起こす要因になるとは考えにくいでしょう。ですが、排出構造に軽度の形成異常があったり、機能的余裕の少ない犬においては、肥満による眼圧上昇が緑内障発症の最後のひと押しになる可能性があるとは考えられます。

[photo by Vince Scherer]
体重管理は目のためでもある?
今回の研究結果だけでは「減量で眼圧が下がる」ことまではわかりません。しかし、もし肥満が犬の眼圧を押し上げる方向に働くのであれば、体重管理は視神経にとっても意味を持つかもしれません。
緑内障は、いったん進行すると回復が困難な病気です。一方、体重は減らすことのできるもの。だからこそ、リスクをひとつでも減らせる可能性があるなら、それを検討することは大切ではないでしょうか。犬の緑内障は主として解剖学的な排出障害による病気ですが、眼圧という一点において、肥満は無視できない変数かもしれません。
また、肥満はさまざまな病気の原因になるばかりか、寿命を短くするかもしれないとの報告もあります。

私たちは自分で体重をコントロールすることができますが、犬の体重管理は飼い主さんの手に委ねられています。体重管理が大変なのは人も犬も同じですが、太りすぎが愛犬の健康に与える影響について、あらためて考えていただくきっかけにしていただければと思います。


【参考文献】
・The future of canine glaucoma therapy. Veterinary Ophthalmology. 22(5):726-740. 2019

