文:尾形聡子

[photo by RHJ]
SNSには、世界各国の人々がアップするさまざまな動画が溢れています。なかでも人気のテーマのひとつが、動物やペットをメインとした動画です。犬や猫の様子を見て笑ったり癒やされたりする瞬間を、世界中の人々が求めるようになりました。
ところが近年、このような動画の一部には、動物が不快やストレス、あるいは苦痛を感じている可能性が高い場面が含まれていることが、次第に指摘されるようになってきました。
過去の研究では、動画の中の動物が不必要に驚かされたり、怖がったり嫌がったりしているにもかかわらず、「ユーモラス」あるいは「かわいい」として人々に受け止められてしまうケースが少なくないことが報告されています。そうした動画が人気になれば、ますます人の目を惹く動画を撮りたいという気持ちが強くなっていくのでしょうが、人にとっては「いたずら」の範疇で済まされる行為でも、動物にとっては明らかなストレスになる場面が散見されるようになりました。
さらに問題なのは、そのような動画がむしろ人気になりやすい傾向があることです。再生数や「いいね」は大きく伸び、多くの人に拡散されていきます。その一方で、動物の立場から見れば、そこに福祉上の懸念が潜んでいる可能性があります。このギャップこそが、いま研究者たちが危惧している点です。
今回紹介する、ドイツのハノーファー獣医大学とドルトムント工科大学の研究者らが行った研究は、このような「おもしろいペット動画」を対象に、そこにはどのような種類の福祉上の問題が隠れているのかを丁寧に分析したものです。研究の目的は、「動物やペットの動画のうち、どのくらいの割合が福祉に抵触しているか」を推計することではなく、「実際にどのような形の福祉上の問題が動画の中に現れているのか」を明らかにし、ユーザーである私たちがそれに気づけるようになるための基盤をつくることにありました。
SNSで気軽に動物の動画を見ることができるようになった現代において、私たちがそれを見て楽しむ視点が、ときに動物の感覚とズレていないか。そのギャップを意識しておくことの大切さを、あらためて考えるきっかけにしていただければと思います。

[photo by Firn] ちなみにこの写真のタイトルには、ハロウィーンの牛のおかしな全身コスチュームを着て〜と、「funny」が使われています。
ほとんどの人気動画に見られた犬や猫のストレス
今回の研究では、Instagram、TikTok、YouTube に投稿された「おもしろいペット動画」から、犬と猫が登場し、かつ動物福祉に問題がありそうな動画162本を詳細に分析しました。動画の選定はランダムではなく、「一見おもしろいが、動物に不利益がありそう」という条件に基づいて行われています。そして、それぞれの動画について、「ケガのリスク」「痛み」「ストレス反応」「繁殖由来の苦痛」などの指標を用いて評価が行われました。ちなみに「繁殖由来の苦痛」とは、“アゴニー・ブリーディング(Agony Breeding)と呼ばれ、動物の福祉よりも見た目や流行を優先した結果、慢性的な痛みや呼吸・運動の障害などを引き起こしてしまう繁殖のことを指します。動画を分析したのは犬と猫の行動や福祉についての専門教育を受けた獣医師で、明確な評価基準にもとづき、一本一本を丁寧に判定しています。
その結果、「おもしろい」「かわいい」と見なされている動画の中に、次のようなサインが頻繁に含まれていることが明らかになりました。
- 82%:犬や猫がストレス反応を示していた
- 53%:ケガのリスクとなる状況が含まれていた
- 30%:痛みが推定された(4%は明らかな痛み)
- 32%:短頭種や折れ耳など、繁殖由来の苦しみが見られた
さらに、動画のカテゴリーで調べてみると、特定のタスクや目標に挑戦し、その過程や結果を共有するタイプの「チャレンジ系」動画の90%以上で、はっきりしたストレス反応が見られていました。
つまり、明らかに虐待をしている動画ではなくても、非常に多くの「おもしろい動画」の中に、動物にとっての負担や苦痛が含まれていた、ということになります。
このような動画中の状況は犬でも猫でも同じで、苦痛やストレスのサインの出方は同程度であることもわかりました。このことは、特定の犬種や特定の投稿者の問題ではなく、私たちが慣れ親しんできた「ペット動画文化」そのものに潜む問題である可能性を示しています。
行動面で特に多く見られたのは、「耳を伏せ、目を大きく見開く(ストレスを感じている顔)」「身をすくめる、固まる」「逃げようとする」「なだめ行動」「ビクッと驚く、震える」といった反応でした。しかし、それに対して多くの視聴者は、「おもしろい」「かわいい」と感じ、動画はどんどん拡散されていました。実際、今回分析された動画の93.8%が、SNSの指標で「成功動画」といわれるものに分類されていることもわかりました。
研究は動物だけではなく、動画の中で人がどのようにペットに接していたかについても分析されました。人が映っていた145本の動画を評価したところ、多かった主な行動は以下になります。
- 動物をしつこく邪魔する・追い詰める(いやがらせ)8%
- わざと挑発する(反応を引き出そうとする)6%
- 驚かせる、怖がらせる 6%
- 衣装や道具をつけて動きを制限する 7%
また、多くのチャレンジ系の動画では、人が意図的に犬や猫を刺激して「驚く」や「怒る」反応を引き出そうとしていたことが分かりました。このような動画の多くは「面白がって」「ノリで」「真似して」「遊びの延長として」行われている可能性が高く、必ずしも人の側に悪意があるとは限りません。それでも結果として、犬や猫は不用意に驚かされたり嫌がらせを受けることにより強いストレスや不快、場合によっては痛みを経験していた可能性があります。

[photo by Masarik]
悪意がない人がしているからこそ、本当のことを知ってもらう必要がある
今回の研究は、「おもしろい」「かわいい」として広く共有されているペット動画の中に、どのような動物福祉の問題が隠れているのかを明らかにしたものでした。その結果、多くの人気動画で、犬や猫がストレスを感じていたり、ケガの危険にさらされていたり、痛みが推測される状況が含まれていることが示されました。しかも、そのような動画ほど、再生数や「いいね」を多く獲得していたのです。
また、健康面で苦しみを伴いやすい形質を持つ短頭種の犬や折れ耳の猫が、楽しさやかわいらしさの象徴として頻繁に登場していました。こうした映像が繰り返し共有されることで、「健康に問題のある特徴的な体型でも、かわいいからいい」という認識が広がり、健康上で苦しみを抱えている可能性が高い犬や猫の需要をさらに高めてしまう危険性についても研究者らは指摘していました。
人が動画を見るとき、「かわいい」「面白い」という感情が先に立つと、犬や猫があらわす小さなサインが見過ごされてしまいがちです。視聴を繰り返すうちに、その違和感に鈍感になってしまう可能性すらあるでしょう。だからこそ、動画を楽しむ一方で、そこに映る犬や猫、そして動物たちが本当に安心しているのかを、いったん立ち止まって考える視点が必要だと感じます。
つい最近の記事「犬の感情を読むということ〜「わかっているつもり」になる前に」でもお伝えしましたが、人は犬の動画を見るだけで、その犬がどのような感情状態にあっても人自身の気分が改善する傾向が見られています。そのような研究結果を思い出しながら、あらためてSNS上の動物動画を眺めてみると、「自分は正しく犬の感情を読み取れているだろうか?」と考えるきっかけにもなるかもしれません。
そもそも今回紹介した研究も、SNS上のペット動画すべてを問題視するものではありません。しかし、「笑い」や「癒やし」の裏側で、動物が不要な負担を抱えていることがあるという可能性を私たちに気づかせてくれる重要な指摘だと言えるでしょう。
ペット動画を楽しむ文化が、ペット自身の犠牲の上に成り立つことのないようにという意識を持って動画を見ることが、動物たちの福祉を守る第一歩になるのではないでしょうか。犬や猫と暮らしたことのない人にとっては、さらに気づかないことも多いかもしれません。もしそのような場面に出会ったときには、その動画が「かわいい」だけでは済まされない可能性があることを、そっと共有していただければと思います。
【参考文献】
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