文:尾形聡子

[photo by kate]
言語は、人に特有のコミュニケーションシステムと考えられています。チンパンジーなどの大型類人猿は、ある程度の語彙を覚えることはできても、人の子どもが自然に習得するような複雑な文法を自発的に使うことはできません。
では、私たちにもっとも身近な動物である犬はどうでしょうか。2004年に、天才的におもちゃの名前を覚えられるボーダー・コリーの Rico が世界的に知られるようになってからというもの、犬の言語能力を探るさまざまな研究が進められてきました。単語の微妙な違いを聞き分けられること、日本語と英語といった言語の違いを区別できること、さらには fMRI を用いた実験で、読み上げた文章の中から知っている言葉に反応することなどが示されています。ただし、犬は人同士のように複雑な文法を使うわけではなく、人の言語処理に特化した脳領域があるとも考えられていません(「サウンドボードボタンで犬と会話?」ほか関連記事を参照)。
一方で、Rico のように大量の語彙を覚え、一度の経験から新しい言葉の意味を推測する「ファストマッピング(幼児が一度の経験から言葉の意味を推測する言語獲得のプロセスのこと)」を行える犬がいることが明らかになって以降、ボーダー・コリーの Chaserをはじめ、同様の能力を持つ犬が世界中でわずかに存在していることがわかりました。これらの語彙学習の天才犬は非常に希少であり、一般の犬とは大きく異なるところがあると考えられています。
では、彼らは普通の犬と比べてどのような特別な能力をもっているのでしょうか。たとえば「桁外れな記憶力〜天才犬は生まれつき?経験?それとも若さ?」で紹介したハンガリーの研究では、おもちゃの名前を大量に覚える能力は特別な訓練によって培われるものではなく、年齢や経験にも依存していないことが示されました。
今回紹介するのは、イギリスのポーツマス大学とドイツのイエナ大学による国際研究チームの最新の試みです。研究チームは、これまでの知見を踏まえたうえで一歩踏み込み、語彙学習に秀でた犬にはどのような認知的特徴が備わっているのかを、一般的な犬との比較に

