文:尾形聡子

[photo by Milan]
健康に生きていくためには毎日の食生活が重要なことのひとつであるのは、私たち人間も犬も同じ。犬も人も元を辿れば肉食中心の動物であったものの、環境の変化や大型動物の絶滅に伴い、植物性の食品も摂取するようになりました。特に犬は、家畜化に伴いさまざまな社会的認知能力を進化させただけでなく、食生活を取り巻く環境に対しても人との暮らしにおいて適応を高める方向、すなわちでんぷんを消化する能力を獲得する方向へと遺伝的に進化してきたことがわかっています(詳しくは「オオカミから犬へ〜ディンゴは進化のどこに位置するか?」参照)。
つまり、人も犬も「雑食性」の動物なのですが、今の世の中には環境保護、動物福祉、健康志向、食品の安全性への懸念などの観点からヴィーガンあるいはベジタリアンとしての食生活を選択する人も増えています。ベジタリアンは菜食主義の総称でさまざまなタイプがありますが、ヴィーガンは菜食主義の中でももっとも厳格な、完全菜食主義スタイルです。
ヴィーガンあるいはベジタリアンとしての食生活を選択する理由は先に挙げたようにいろいろあり、人によってさまざまなのですが、たとえばその一つ、地球の環境の保護のためという観点からすれば、人だけでなく犬を含むペットの食料事情は環境問題と強く関係していることが研究によって示されています(「ペットの食餌のタイプ、環境にもっとも悪影響を及ぼすものは?」参照)。そもそも、食と環境問題は密接で、食料を生産することによる環境への負荷(食料の輸送、販売などを通じて発生するCO2排出や、土壌の劣化、水資源の不足など)については世界的な問題として提起されていることは皆さんもご存知のことでしょう。
さて、理由は千差万別ではありますが、菜食主義者が増加しているという背景もあり、犬と共に暮らす菜食主義者の飼い主においては、自分の犬にも植物性のものをベースとしたフードを与えたいと考える人も増えています。なぜなら、菜食主義者、とくに完全菜食主義者であるヴィーガンの人にとっては、雑食性である犬に「動物性の食べ物を与えるべきか、あるいは植物性でもいいものか」という倫理的なジレンマに直面するからです。実際、そのような人々の要望に応える形で、犬用の植物性のドッグフードの販売も増加してきています。
しかしそこで拭えないのが、「はたして植物性由来のドッグフードは、犬の必要な栄養素をカバーできているのか」という疑問や不安です。その点については

