文:尾形聡子
[photo by AnnaStills]
現在の日本において、家庭犬に対して広く不妊化手術が行われています。その主な目的は望まれない妊娠を防ぐためであり、飼い主としての責任のひとつであるとみなされる風潮があります。その一方で、性腺摘出手術はたんに繁殖能力を喪失させるだけでなく、犬の生涯にわたり健康や行動にさまざまな変化をもたらすことが研究により明らかになってきています。
性腺摘出によるメリット・デメリットを見直してみる
確かに、生殖器を摘出すれば、その組織に関する疾患を発症するリスクを排除あるいは低減させることは可能ですし、メスの擬似妊娠やオスのマーキングや性欲など生殖ホルモンと密接に関係する行動が少なくなることもあります。ただし個体差があり必ずというわけではありません。
しかし、性腺摘出による不妊化手術により、犬のがんや肥満、整形外科的疾患、メスの尿失禁などのリスクが高まることがわかってきています。さらに、攻撃性、恐怖や不安が高まったり、さまざまな刺激に反応しやすくなったりするなど(reactive dog)の行動の変化も報告されています。このような性腺摘出による不妊化手術が犬の健康や行動に及ぼす影響を総称して「spay and neuter syndrome(不妊化手術症候群)」と最近呼ばれるようになっているそうです(アメリカの獣医師であるRuth Roberts氏による造語)。
性腺摘出によるホルモンの喪失に伴うこれらのリスクは、