持ってこい遊びをする犬、後脚を鍛えよう!

文:藤田りか子


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アスレチックな犬と暮らしている方ならこの悩みはわかってくれるはず。我が犬の歩様がちょっとでも破行の兆候をみせたりすると

「もしや…!」

と肘関節形成不全の一つであるOCD(離断性骨軟骨炎、通称関節ネズミ)を疑ってみたりと一気に気持ちがどよ〜んと落ち込んでしまう。なにしろうちのラブラドール・レトリーバーたちはアクティブに過ごすことこそ、犬生の意義と考えている。にもかかわらず走るときに跛行を見せるほど痛みを感じなければならないなんて、彼らにとっては酷である。もちろんそのような状態の犬をドッグスポーツに出すことはスウェーデンでは倫理的にも許されないし、練習がお休みになるのも言うまでもない。

フィールド系ラブラドール・レトリーバーのアシカは、3歳の頃前脚の破行を見せた(こちらの記事「スポーツドッグにフィジオセラピーのすすめ」にも少し書いているので読んでみてね)。ありがたいことに破行の原因は筋肉の炎症であり、肘関節の問題ではなかった。フィジオセラピストと獣医クリニックに通いながら完治することができた。

フィジオセラピストのJさんは

「フィールド系のラブねぇ。この犬たちは本当に故障がおおいのよ〜。特に前脚。競技会で競っているレトリーバーがクライアントとしてくると、たいてい異常があるのは前脚なんです。でも治す部分は前脚じゃなくて後ろ脚なんですけどね。」

と話してくれたものだ。これはフィールド系ラブが回収のスポーツに従事していることと実は大いに関係している。そのことを証拠づける研究論文が2016年にも発表されている。この論文のダイジェスト記事を書いた尾形聡子さんは「ダミーの重さに注意!レトリーブトレーニングをするとき」(非公開記事)にて以下のように述べている。

実験には、現役でレトリーブ作業を行っている10頭のラブラドールが参加。犬たちは、何も口にくわえていない状態、そして0.5キロ、2キロ、4キロのダミーをくわえてフォースプレート(体にかかる圧力などを計測する板状の機器)の上を歩き、垂直にかかる重力、足の裏にかかる圧力、前肢にかかる圧力など、運動器系への負荷を測定し、その結果を解析しました。

何もくわえない状態では犬の体重の60%は前肢に、40%は後肢にかかるそうなのですが、より重いダミーをくわえるほど、足の裏にかかる負荷は増え、特に前肢により高い負荷がかかる一方、後肢へかかる負荷の割合は減少していることが示されました。

そう、ただでさえ前脚に半分以上の負荷がすでにかかっているのに加え、回収をしてダミーをくわえることでさらに前脚の負担が増加する。そして次のようにも述べられている。

実験室内では走ったりジャンプしたりすることはできず、歩行状態での測定しかできなかったそうですが、実際の競技や狩猟では速いスピードで動くため、より前肢の関節や筋肉、腱といった運動器系に負担が生ずると考えられると研究者らはいいます。

うちの犬はダミーをくわえながら溝を飛び越えたり、深い茂みを走ったりする。さらには平坦な土地だけではなくでこぼこのフィールドを走る。それも一回きりではなく練習中には立て続け様に行う。前脚の関節や筋肉の負担たるや、かなりのものであると想像する。


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Jさんによると、前脚負担をさらに悪化させているのは、後脚の強化を普段からハンドラーが意識してやらないためだ、とも言う。

「後脚を強化しないから、犬は後脚の動きを意識することができず、前脚にすべてを頼ろうとします」

後肢の強化を行えば、運動中も無理のない形で体をコントロールすることができ、バランスもより向上する。これはガンドッグのコミュニティのみならずアジリティやオビディエンスのハンドラーの間でも、大事な概念として認識されている。たとえばオビディエンスでは犬に正確にポジションにつくこと、シャープでパーフェクトな方向転換や停止が求められる。そのためには後脚が十分コントロールされており、細かく素早い動きをサポートするようでなければならない。

多くのオビディエンスハンドラーは犬が一歳になったあたりから、踏み台などを使いながら後脚トレーニングを行うものだ。後脚コントロールの向上、それに伴うバランスの向上は、犬の自信とも関連があり、不安な犬をよりメンタル強くすることもできるという。これは以前プロプリオセプションの記事の中でも述べている。


踏み台を使い後脚のコントロール練習![Photo by Rikako Fujita]

後脚コントロールは誰もが家庭でトレーニングできる。そのやり方についてはまたの機会にお話をしよう!