文:尾形聡子
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近くに誰かの目があるときと、ひとりきりのとき。人前では控えようとする行動、あるいは、人の目があるから積極的に取る行動があり、人に見られていることで行動が良くも悪くも変化することがあります。たとえば人前で話をしなくてはならない場合には、緊張が強まりうまく言葉が出てこなくなる人もいれば、人からの注目が集まることでよりいっそう舌が滑らかになる人もいます。
このように、社会的な環境の中で近くにいる人からの目が当人の気持ちや行動に及ぼす影響をオーディエンス効果(観客効果、観衆効果;audience effects)と言います。心理学分野では、オーディエンス効果において、周囲に人がいることでやろうとしている行動のパフォーマンスがより良いものになる現象は社会的促進、逆の場合は社会的抑制とも呼ばれています。
オーディエンス効果は人だけでなく、オナガザルやボノボ、リスやマウスなどにおいても観察されており、もれなく犬にも見られるものです。通常は同種間で生ずる現象ですが、犬においては人と犬という異種間においても発生することが示されています(「犬同士の遊びの盛り上がりには、飼い主の…?が関係」参照)。
同種だけでなく、異種である人からの目も行動に影響を受ける犬において、犬からと人からのオーディエンス効果は同様なのでしょうか。日常的に対犬と対人とで異なる視覚的(ボティランゲージ)、あるいは聴覚的(発声)なシグナルを使い分ける犬は、同じ状況下にあるときに受けるオーディエンス効果により、異なる行動を示す可能性があります。そこで、かねてより犬の表情について研究を行っていたイタリアのパルマ大学とオーストリアのウィーン獣医大学の研究者らは、見知らぬ犬や人が犬の表情や行動に及ぼす“リアル”オーディエンス効果の影響を直接比較する研究を世界で初めて行いました。
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