文:北條美紀
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みなさんは、心的外傷後成長(PTG:Posttraumatic Growth)という言葉をご存知だろうか。おそらく、響きの似た心的外傷後ストレス障害(PTSD:Posttraumatic Stress Disorder)については何度も耳にしたことがあるだろう。
PTSDとは、命の危機に直面するような出来事に遭遇し、強い精神的ショックを受けた結果(トラウマ)、心身にさまざまな症状を呈する精神疾患の一つだ。そして、従来の医療モデルに基づき、トラウマによって生じたマイナスの影響をそれ以前のゼロ状態に回復させるための研究と実践が、長年にわたり行われている。
一方、PTGが研究されるようになったのは20年ちょっと前の話で、比較的新しい概念といえよう。こちらは、ウェルビーイングや楽観性、レジリエンス等との関係について盛んに研究が行われており、トラウマからの回復を目的とするのではなく、さらにプラスの成長へとつながる可能性に注目している。
今回、PTGを取り上げようと思ったのは、「犬が視力を失うとき〜犬はどう適応し、飼い主はどう変化するか?」の記事に触発されたからだ。この記事によると、中途失明した犬との暮らしについて調査するため、約41,000人にアンケート協力を求めたところ、398の有効回答数(回答率1パーセント未満)を得ていた。回答率は非常に低かったが、その内容は実にポジティブでなもので、困難に直面している多くの犬と飼い主に勇気を与えてくれるものだった。これを見て、この研究に協力した犬と飼い主たちにはPTGが起きているのではないかと思ったのだ。