文:尾形聡子
[photo from Adobe Stock]
犬の性格は生まれ持った遺伝的な気質と環境との相互作用によって作られていることはよく知られるようになりましたが、性格の特性によって遺伝面が強く出るものと、環境面の影響を受けやすいものがあることがこれまでの研究で明らかにされています。たとえば、一般的に遺伝しやすい性格・行動特性としては騒音への恐怖、人への社交性、レトリーブなどの形質があることや、犬種特異的に特定の行動を引き起こす原因となる遺伝子変異との関連性が示されたりもしています(文末の関連記事参照)。
さらには、性格は遺伝と環境のみならず、加齢によって少しずつ変化したり、遺伝と環境の間を取り持つ「遺伝子環境相互作用(Gene–environment interaction)」にも影響を受けることが示唆されています。このように、性格というものはたくさんの要因が複雑に絡んで相互作用しながら形成されている上、不変特性ではないため、性格形成の全貌を明らかにするのは非常に困難です。
犬はそれぞれの犬種に特有の行動や気質を備えるよう人の手により育種されてきた背景を持つため、犬種によって行動や気質にある程度の傾向があり、そこについては遺伝的な影響があるはずだと考えられてきました。しかし、この通説を覆す見解が2022年、アメリカの研究チームにより出されました。研究者らは「犬種は個体の行動特性の予測因子として不十分」と結論しています。詳細はリンク先記事をご覧いただくとして、そこでは特定の行動や気質においては遺伝率が高いものの、同じ犬種でも個体のばらつきが大きく犬種固有といえる行動はない、と考察していました。
この研究結果をどう捉えるかについてはなかなか悩ましいと思っていたところ、同年末にアメリカの別の研究グループが、「どうして牧羊犬は羊を集めるのか?」の遺伝背景の解明に大きく一歩近づいた研究を発表しました。行動や性格を形作る複雑な遺伝背景も、このようにしてようやく少しずつ解明されはじめている状況です。
フィンランドのヘルシンキ大学のHannes Lohi教授は、犬の性格は幸せに生きるためにとても重要であり、人との関係性にも大きく影響するものだという考えのもと、かねてから犬の恐怖心や攻撃行動などについて研究を続けてきています。さまざまな性格特性と環境要因との関連性、犬種に的を絞って遺伝的な要因を探る研究など、これまでに犬曰くでも数々の研究を紹介してきました(関連記事を参照)。Lohi教授は攻撃や不安など犬の好ましくない行動にフォーカスして環境要因や遺伝要因との関係を調べる研究を主に行っていましたが、このたび、より広く「犬の性格」に与える要因について調査しました。はたしてどのような要因が犬の性格特性に強く影響を及ぼしていたでしょうか。
[photo from Adobe Stock]
性格の違いにもっとも影響する要因は?
研究者らは