文と写真:藤田りか子
北欧の若い子、日本の若い子とそれほど異なるわけじゃない。ゲームが好きでスマホを眺めソーシャルメディアに写真を投稿しては「いいね」の数をチェックする。だが、完全にデジタル世界にどっぷりというわけでもない。程度の差はあれ、彼らの意識の中に「森」の存在はあると思う。
オリエンテーリングの発祥の地と言われているスウェーデンだけに、都市部でもちょっと郊外に出れば、そこはもう森。住宅地でも、家の裏には小さな森がたいてい広がっているものだ。北欧人の森とのつきあいは、子供の頃からのもの。遊び場であると同時に大人になれば精神滋養の場でもある。
日本から北欧の若者の様子を撮影して欲しいと頼まれ、16歳の高校生であるソフィアさんとエルサさんのハイキングについていったことがある。二人はクラスメート同士。「パジャマパーティ」と称してリュックサックに必要なものをつめて小型のテントを持参。ソフィアさんの横には愛犬シーザーがいた。シーザーはラゴット・ロマニョーロという犬種。スウェーデンではとても人気がある。元はイタリアでトリュフを狩っていた犬種だ。
「今日は森にサンドイッチとソーセージを持ってハイキングしまーす!」
とまるで渋谷に友達とつるむ感覚で森へ繰り出した。
「エルサのところに泊まるってお母さんに言ったけど、かわりに森のキャンプで夜更かしして、おしゃべり!」
とソフィアさん。エルサさんと顔を見合わせて、その後キャハハと笑った。何がおかしいのかよくわからないが、おばさんの私もティーンエイジャーのノリに倣って、キャハハといっしょに笑ってみた。
森に入ればキャンプファイヤーを作る。北欧なら定番だ。しかし大人と異なり火を作ったからといって、ワイングラスを片手にそこに座り込んでしんみり話をするわけではない。女の子たちはソーセージが焼けるほど火が熱くなるまで、焚き火は放ったらかし。森や湖のまわりをキャーキャーいいながら探索したり、棒を投げたりして遊びに興じた。見かけはませているようでも、意外に子供っぽい。
しかし犬をいっしょに遊びに交えていたのが印象的であった。たとえば一人が森の茂みに隠れて、もう一人が犬に「探して!」と命じていたりするのだ。まるで災害救助犬のトレーニングみたいなことをやらせている。犬が見つけたら「よーくできたね!」とこれまたタイミングよく褒めている。自然に犬に接している感じが、まさに大人が目指すドッグマンシップであったりする。
(写真上)焚き火の火が十分に熱くなるまでその辺を走り回り遊び始める。犬もいっしょ!
隠れん坊ごっこをして犬に探させるという遊びもしていた。
キャンプファイヤーでソーセージを焼くだんとなり、シーザーはソーセージほしさに「ワンワン」と吠えた。ソフィアさんは、即座に「だめ!」と禁止の言葉を出したのだが、しばらくして犬がおとなしくなり落ち着いたところで彼を呼び戻した。そしてソーセージの切れ端を与えた。とても上手に犬を扱う。そして犬を飼っていないエルサさんも同じように接している、というかソフィアさんのやり方を見よう見まねして、余計なことをしない。
この訪問で、もちろん若者の楽しい森でのひと時を写真におさめることができたのだが、私にとってはこの二人の犬との付き合い方の方が印象に残った。そして文化がその国における犬との付き合い方を作るのだろうと思った次第だ。