子供ぞろぞろ、犬ぞろぞろ 〜 ピレネー山脈を馬に乗って犬探訪 その2

文と写真:藤田りか子

ピレネーの山越えの面白さは、国境のど真ん中を走る山脈だけに、スペイン、フランスを行ったり来たりできることだ。のみならず、山中にはアンドラという20km四方ほどの小さな国がある。つまり3か国を同時に楽しめる。今日はスペイン側、明日はフランス側という感じで、国境を行ったり来たり。

4日間の馬での山越えだったが、それぞれの国に入るたびにお国柄が伺えた。そう、こんなに密接した地域でも、やはり国によってカラーが現れる。それを犬文化を通してみると特に…。

たとえば、フランス側は犬連れOKのレストランが多い。パリと同じ状況だ。スペイン側では犬連れ禁止サインをあちこちでみかけた。

スペイン側からスタートしたところはおよそ標高2800m。そこからエンヤコラと岩だらけのトレイルを馬で降りてきた。標高が低くなったところで林になり、そこから国道に出た。ここはフランス側だ。国道のロータリーを馬で闊歩したのは生まれて初めてだ。けっこうな冒険である。車がそぉ~っと馬の後ろについて、ゆるゆると走ってくれた。

石だらけのトレイルは馬から降りてくだっていく。足腰鍛えられるぞ!

そしてたどりついたのが、オーベルジェ(フランス語でいう宿)。オーベルジェの裏に牧草地があるのだから、ここの田舎度がわかるというもの。そこに早速働いてくれた馬たちを放し、霧ですっかりぬれた体をふきふき、宿のレストランに入る。ドアを開けたら、大きなバーニーズがいきなりドンと迎えてくれたから驚いた。体が大きいだけに、存在感もデカイ。レストランの真ん中にいすわっていた。

オーベルジェの主のおっちゃんが、「今日のスープとパン」を持ってくると、我々乗馬ツアーのメンバーたちはしゃべるのも忘れて真剣に食べはじめた。と、今度は子供たちがぞろぞろ食堂にやってきた。そして先のバーニーズといっしょに写真を撮ってくれ、とせがむのだ。なんでも、バーニーズも子供たちもおっちゃんの家族。フランスのレストランは子供の出入りに厳しいものだが、何しろここは山岳の村レストラン。

「レストランで子供も犬もこんなに許容されているなんてねぇ」

と相棒のスウェーデン人友人。「こんなことありえない」と言わんばかりであった。というのもさすがにスウェーデンの田舎でもここまでのユルさはないからだ。


子供たちがバーニーズと写真を撮って欲しいというので、教会を背にしてパチリ。こんな美しい山村がピレネー山脈にはあちこち!

こちらが犬を気に入った様子を、おっちゃんはさらに気に入ってくれたらしい。子供だけじゃない、なんとおっちゃんまで奥から自分の犬を連れてきたのだ。

おお、それが、こんなに珍しい犬種とは。犬種マニアの私がさらに喜んだのは言うまでもない。犬種の名前は、ブラックー・ド・ボルボネ。フランス原産のポインティングドッグ。鳥猟などに使われるガンドッグだ。白地にうすいレバー色のドットが特徴。こんな犬、フランスにでも行かないとそうそう会えるものではない。おっちゃんの趣味の狩猟のお供をしてくれるそうだ。

「この犬は、レトリーブもすごいんだぞ」

と言いながらおっちゃんはテーブルの横でぬいぐるみを投げて、そのレトリーブ技の披露もしてくれた。投げればボルボネが走る。そしてぬいぐるみを回収する。そしてまた投げる。回収する。行ったり、来たり、行ったり、来たり。一方で子供達もレストラン内をバーニーズをからかいながら走り回っていた。それに誰も注意すらしない。レストランなのに、まるでドッグランに来たようであった。我々の後に来た二人の男性もハスキーをともなっていて、向こうのパブ席についていた。


出た!こんな珍しい犬種がピレネーの山村に。ブラックー・ド・ボルボネ、あるいはブルボネ・ポインティングドッグ。レストランのおっちゃんの狩猟犬。ぬいぐるみで上手な回収技を披露してくれた。それもレストランの中で!


子供ゾロゾロ、犬もゾロゾロ。レストラン内はにぎやか。お母さんもでてきて、一応子供を統制するのだが…。

ヨーロッパって村なら昔はどこもこんな感じだったのだろう。考えてみれば、のんきでもあるし、のどかでもある。犬たちが生活に密着したピレネー山村風の<フツ~の生活>ぶりを、そんな風にうらやましく眺めた。しかし…出されたスープは、いざすすろうと口をつけたものの、すっかり冷めていた。

– 続く-

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