見えないモノからペットを守る〜街路樹などに散布される農薬を避けるために

文:サニーカミヤ


[Photo by Nick Fewings on Unsplash ]

身近な街路樹や公園緑地の花木類などの管理のために使われている農薬の毒性が、ペットの健康に影響を及ぼす可能性があることをご存知ですか?見えないモノ(農薬)が見えてくる」気づきのきっかけとなったとある調査資料を見つけました。とても興味深いのでみなさんにもシェアしたいと思います。

■自治体における街路樹、公園緑地等での防除実態調査結果
(環境省 水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室)https://www.env.go.jp/press/files/jp/9073.pdf

この資料を作成した環境省の水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室は、周辺住民が吸入した場合に健康に悪影響を及ぼす恐れがあり、 農薬の飛散リスクを評価し管理する必要性が高まっていることから、2005年度より「農薬飛散リスク評価手法等確立調査」を行っているとのことです。


出典: Dorian Drake International Inc. https://www.doriandrake.com

散布されている各農薬の毒性については詳しく触れていませんが、簡単に読むと「健康に悪影響のある農薬を吸引した場合のリスクについての報告書」のようです。

ということは、人間の鼻よりも地面に近く、毎日平均2回・平均距離2kmの散歩をし、体も小さく吸引量も多いと思われる犬にとっては、日々、農薬が体内に取り込まれる可能性が高いわけです。かなりの累積毒となってしまうのではないかと心配になります。

下記表は、各自治体の農薬使用頻度、量の多い薬剤についての選択理由です。


出典:「自治体における街路樹、公園緑地等での防除実態調査結果」環境省 水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室

使用される頻度の高い「フェニトロチオン」は有機リン系化合物に属する殺虫剤で、スミチオンという商品名で良く知られています。作用機構は昆虫体内に入った後、酵素の働きでオクソン体となり、コリンエステラーゼと結合することで酵素活性を低下させ、正常な神経伝達機能を阻害することにより殺虫効果を示すものと考えられているものです。フェニトロチオンの安全性について詳しくは、以下の調査資料をご参照ください。

■農薬・動物用医薬品評価書 フェニトロチオン (第2版)
2017年5月 食品安全委員会農薬専門調査会
https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc3_no_fenitrothion_290517.pdf?fbclid=IwAR3fIbJyTrIQKFT5NoCCxu2JO9YY4sJKUYtolafpGwzW1cul11-i2wX5yWE

確かに、農薬を散布して害虫を駆除しなければ、街路樹や公園緑地といった場所の花々などを維持管理できない現実があります。季節の花々が楽しめなくなるのは悲しいですしね。

もちろん、ナチュラルメイドのオーガニック農薬などを使えばいいのですが、現在、国内で市販されているものは高すぎてコストが合わないのと、幅広い種類の害虫駆除に対応できる、環境に優しい自然成分由来の農薬がないため、どうしても現在使用している農薬を今後も使う必要があるようです。

ではどうしたらいいのでしょう?農薬の吸引予防方法を考えてみました。

1 歩道の真ん中を歩かせる

散歩中に何かを嗅ぐのは、犬の楽しみの一つです。ただし農薬に限らず、花粉などを嗅がせたくないときには、できるだけ歩道の真ん中を歩かせるようにすることで、予防できる可能性が高くなります。また、周囲の建物の配置によっても風通しなどにより、落ち葉やゴミがたまりやすい場所がありますので、普段の散歩の時から「見えないモノを見る」目を配っておくといいかもしれません。

下の動画は、飼い主先導型の散歩のしつけシーンです。


How to Train a Dog to “Heel” (K9-1.com) Dog Training by K9-1.com (出典:Youtube)

2、農薬散布時期は特に注意する

下記の調査結果によると、日本全国どの自治体も農薬散布が少ない時期は冬で、6月が特に散布が多いことがわかります。散布の時間はその日のスケジュールなどによって違うため特定できないようです。

また、街路樹や害虫などの種類によっても毒性の異なる農薬を使用するため、用を足すときには街路樹から遠くに離し、吸わせないようにすることが大切なようです。


出典:「自治体における街路樹、公園緑地等での防除実態調査結果」環境省 水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室

3、水たまりの水を飲ませない

毒性の農薬が溶け込んでいる水たまりの水は、一度に体内に取り込まれてしまいますので、飲ませないように特に注意してください。

下記のビデオは、犬が水たまりの水を飲もうとしたり、街路樹に尿を掛けようとしたりするなどの行動を抑制するコマンドとトレーニング方法です。犬も樹木も守れるようにしつけをしましょう。


 How to Train a Dog to “Leave It” (K9-1.com)Dog Training by K9-1.com (出典:Youtube)

4、草むらで遊んだ後は体全体を拭く

毎回の散歩の後に体を拭くのは大変ですが、特に農薬散布の多い夏の時期は草むらのノミやダニ、各種細菌の発生も多いため、たくさんゴロゴロした後は腹部や四肢、肉球などをきれいに拭いてあげることをおすすめします。

5、街路樹を守ることも大切

街路樹に雄犬が尿を掛けるとそこから樹木が痛んでしまいます。飼い主のマナーとして、樹木などに直接尿を掛けないようにピーコントロール(犬の尿先コントロール)と、用を足した後には尿とだいたい同じ量の水を掛けるなどのマナーが必要だと思います。

犬のお散歩コース上の街路樹は毎日、何十頭もの犬が用を足していますので、病気になったり痛みやすいこともわかっています。歩道の樹木や公園の草も私たちの税金で管理されていますので、歩み寄りが必要だと思います。

街路樹も下記のような犬の尿よけ(ピーガード)があるといいですよね。日本では、見たことがないような気がします。


出典: WARNING – Protect Trees from Dog Pee/ Dawg Tree (出典:Youtube)

いろいろな犬が用を足す場所は、細菌感染スポットでもあり、様々な病気の要因につながることもあります。農薬を大量に使っている広大な草や芝生のあるエリア(公園やゴルフ場など)の風下側は、花粉と同じように乾いた農薬が粉となって路上にたまることもあるようです。

あまり神経質になるのも大変ですが、社会環境の中でバランス良く、相互事情を受け入れながら、少しでも「見えないモノを見る」という気づきを生かしてペットの健康に役立てられるといいですよね。

本記事はリスク対策.comにて2017年2月8日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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