文と写真:藤田りか子
フレンチ・ブルドッグやパグといった短頭犬種は日本を含め世界的に人気だ。と同時に、彼らの異常な体の作り(頭部の作り)に由来する不健全性は、ヨーロッパではかねてから多くの専門家によって指摘されていた。特にここ10年間、獣医師を含め愛犬家、ブリーダーの間で大きな論争の的となっている。
不思議なもので日本ではこの議論が交わされることはほとんどなく、まるで「どこ吹く風」という感じだ。我々「犬曰く」を運営している者にとってもその関心の少なさは以前から気がかりだった。開設当初から短頭種に存在する問題について尾形聡子さんが欧米からの最新科学論文をダイジェスト記事としていくつも発表している(記事のリストは本文の終わりを参照に)。が、これら記事に対してPV(ページビュー、読者のアクセスのこと)はあまり芳しくなかった。
それどころか、パグやフレンチブルドッグのいびき音やブヒブヒいう様を「かわいい」としか形容しない人が世の中に相変わらず多い。こんなにネット情報があるにもかかわらず、だ。いや、たとえ短頭犬種論争があったとしてもそれは「ブリーダーと血統犬種はすべて悪で、犬なら保護犬を飼うべき」というような浅識な議論で止まってしまう。犬種をどのようにブリーディングすべきか、というところまで話はいかない。それは、日本における家畜動物のブリーディングの歴史が欧州に比べると浅いという理由もあるだろう…。
ところがこの度(2022年2月)ノルウェーでブルドッグとキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのブリーディングが違法になった判決を、多くの日本のメディアがとりあげた。これは正直、意外だと思った。となると、これを機に日本でも犬種を作る(=犬種を健全につくっていく)、ということについて、犬のマニアといった限られた人だけではなく、庶民の間でも知識として広がっていく可能性があるということだろうか。そうだとしたらこれは好ましい傾向でもある。
訴訟はノルウェーの動物保護協会が、ノルウェー・ケネルクラブと犬種団体であるノルウェー・ブルドッグクラブ、およびノルウェー・キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルクラブ、さらに6人のブリーダー個人を相手取って起こしたものだ。動物の品種を作ることについて200年以上の伝統を持つヨーロッパで、今回のノルウェーの判決を多くの人はどう捉えているのだろうか?