文:藤田りか子
古書は犬種の歴史探訪の宝庫だ。1800年代以降、イギリスでは多くの犬本が出版された。この頃には犬種という概念も確立され1800年中期からドッグショーというドッグスポーツが人気となっていった。当時の犬本にはその流行が明らかに反映されており、さまざまな犬のタイプについて、沿革と詳しい解説がでている。犬種の歴史や犬と人との関わり合い、犬文化に興味ある人にとって興味深い読み物となる。
当時の犬との付き合い方、しつけ方、トレーニングの仕方もわかるし、挿絵もとても面白い。あの頃この犬種はこんな姿をしていたんだ!とびっくりすることも多い。そう、犬種の見かけは時代とともに変わっていく。何しろ、人が選択繁殖をするわけだから、その時々の人々の嗜好が犬のルックスを決めていく。
本記事では1845年にイギリスで出版されたWilliam Youattによる「犬」という本からプードルについての記載をここにいくつか抜粋した。その考察を述べてみたい。
上の挿絵を見て、これがプードル?!と驚かれる人もいるかもしれない。そうなのだ。1800年代のプードルはこんな感じ。どちらかというと今のラブラドゥードル風だ。プードル独特のカットはすでにこの頃からあったにはあったが、お尻以降の毛がシェーブされていたのみ。今のポルチュギース・ウォーター・ドッグの姿を思い出すとイメージがわく。おまけにこの挿絵のプードルはブチ柄。現在のプードルの正式なカラースタンダードは単色(ブラック、ホワイト、ブラウン、グレー、フォーン)のみだ。頭部も今のプードルのような優雅さはなく、かなりがっちりとしている。しかしその中身、つまり「頭脳」については、当時からすでに「賢い犬」ということで定評があった。Youattはこんなふうにプードルのことを綴っている。
「オリジナルはウォータードッグ(水鳥猟に使う犬のこと)だが…(省略)… その賢さゆえにほぼありとあらゆる作業をトレーニングすることが可能で、かつ一人の人にとても忠実であるがため、鳥猟犬というよりも愛玩犬として多くの人に飼われている。実際に、プードルを飼っている人は、鳥猟犬としての素質に気がついていないものである」
Youattは、一人の人のみに忠実がために狩猟犬というよりは愛玩犬として、と綴っているが、そこに日本とは異なるイギリスの猟犬のあり方も見えてくる。日本ではむしろ一人の主に忠誠を尽くして作業をする日本犬が、獣猟犬としてもてはやされてきた。この違いは、もちろん狩猟となる対象の動物、そして狩猟形態や状況が異なるからであろう。プードルが実際にガンドッグ(鳥猟犬)として優れている理由を彼はこう述べている。
「プードルたちは、ウォータースパニエルや、あの賢いといわれているニューファンドランドよりもはるかに勝ち気で、こういう表現が許されるのであれば、多様な才能の持ち主。今ここに述べたどの犬よりも、一人の人に強い愛着を示す」
Youattが言及している「ニューファンドランド」は、わたしたちがよく知っているあのジャイアント犬「ニューファンドランド」ではないはずだ。おそらく現在のフラットコーテッド・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなど当時カナダからイギリスに連れられてきた回収犬一般を差していると思われる。当時は十把一絡げにそういうふうに呼んでいたものだ。
プードル(今でいうスタンダードプードル)の鳥猟犬としての素質は、現在でも多くの人に見過ごされているし、そんな才能があるのか!と意外に思う人もいるだろう。アメリカにはプードルを水鳥回収犬として使おうとする、情熱的愛好家もいる。とはいえ犬種という概念ができあがってからおよそ150年の歳月が流れている。強い人工選択圧の末出来上がった今の狩猟系のレトリーバー種にはかなわないと思う。プードルファンには怒られてしまうかもしれないけれど!
以下にアメリカのプードル愛好家による「鳥猟犬としてのプードル」を見せた動画をどうぞ。この回収意欲、いかがなものだろう?きっとみなさんのプードルの中にも、鳥猟犬としての素質をもった子がいるはず!
【参考文献】
William Youatt. (1845). The Dog. Charles Knight and co. London