文:尾形聡子
[photo from wikimedia] デンマークとスウェーデン南部の農場犬であったデニッシュ・スウェーディッシュ・ファームドッグ。
2016年、イングリッシュ・ブルドッグが遺伝的に似通っていて遺伝的多様性を大きく失い危機的な状況にあるという研究が発表されました。それについてのナショナルジオグラフィックの記事を読んだ方も多いかもしれません。
その後、犬の遺伝や繁殖の話をするときにはこの話題をたびたび引き合いに出してきましたが、そもそも犬種は犬種という閉じた集団の中で犬種基準に沿った姿形や特性を持つように人が繁殖を行っているため、イングリッシュ・ブルドッグに限らずほかの犬種においても、雑種と比較すれば遺伝的多様性が低いことは想像に難くありません。実際に、犬は家畜化と犬種の確立の二つの大きなイベント、さらにはそれぞれ歴史的なできごとが起こる中でさまざまな形態や特性を獲得した代わりに、限られた数の創始者の中での近親交配が行われてきたことで遺伝的多様性を失っていきました(ボトルネック効果)。
どの生物も、遺伝的多様性が失われていけば、近交弱勢(近交退化)が見られるようになっていきます。「犬種の作出がもたらした弊害〜キャバリアにのしかかる有害な遺伝子変異」で紹介しましたように、隠れていた有害な形質(劣性形質の遺伝病など)があらわれてくるのはよく知られていることです。それだけでなく、