文と写真:藤田りか子
ノーズワークのボックスサーチをやってもボックスを見るとこのようにグシャリとつぶして壊すだけであった当初のラッコ。
箱に興奮して嗅覚活動を忘れる
私がノーズワークの世界に入ったのは3年前のこと。ラッコをトレーニングしたことがきっかけとなった。ラッコは1年後には競技会でたくさんの良い成績を残すなどなかなかの成長ぶりを見せてくれたが、そこまでたどり着くのは決して易しい道のりではなかった。子犬時代のまっさらな頭でノーズワークを習ったアシカと比べ、ラッコには大人犬ならではの「ついてしまった癖や行動」がたくさんあり、それを克服しながらのトレーニングであった。もっとも私自身がこの世界における初心者であったことも、苦労を伴った理由だろう。
さて、彼とのトレーニングで最初の難関は、ボックスサーチ(コンテナーサーチ)をマスターすることであった。スウェーデンの大半のノーズワーク・インストラクターはまずラインアップから始め、その後ボックスサーチに移行する。ラッコは、ラインアップではさっさとターゲット臭となるにおいを取るようになったものの、ボックスに移行した途端、その学習した行動がすっ飛んでいってしまったのだ。
何と言っても彼はレトリーバー。そう、ボックスサーチのように物品が並べられていると、彼としては仕事モードが「ノーズワーク」ではなく「レトリービング(回収)」に切り替えられてしまう。そもそも私は彼とガンドッグ競技会への参加を夢見て子犬の頃からダミーを回収させるというトレーニングを積んできていた。
ボックスは通常いくつも地面に並べられ、その一つににおいが隠されている。しかし彼はボックスを見るたびに口でくわえようとし、それが許されないとわかると、今度は一つ一つのボックスを前脚で叩きのめすようになったのだ!ラッコのパワーにはただ唖然、インストラクターを含め他の参加者もポカンとして彼の破壊行動をみていたものだ。そして、どうやらラッコはそれを心から面白がっていた。
ラッコほど強烈ではなくとも、容器や箱を見ると嗅覚作業よりも物品そのものに興味を覚え鼻を使う作業であることを忘れる犬は珍しくない。結果「くわえる行動」に出てしまう。やはりレトリーバーに多い。いわば箱壊しは「よくあるノーズワークの問題行動」とも言えるだろう。ノーズワークというスポーツのルール上、コンテナーサーチの際に物品をくわえたり、壊したりしてしまうのはNGだ(失点対象)。もっともノーズワークが本来「麻薬探知犬」や「爆薬探知犬」をベースにしたスポーツであることを考えると、失点のペナルティは筋が通っている。例えば地雷探知犬や環境汚染毒物探知犬は、絶対にターゲット臭を探し当ててもそれに触れてはいけない。地雷探知犬であれば、嗅ぎとったら、犬はそばに座って隠し場所を鼻でさし示すだけである。
トラブル・シューティング
ラッコのような問題にはいくつか解決法がある。