犬の行動は飼い主の目次第?

文:尾形聡子

[photo by Matt McGee]

犬は本当に、わたしたち飼い主の一挙手一投足に敏感に反応できる生き物だと感じます。人同士ならば言葉というツールを使って空間的にも時間的にも離れている相手とコミュニケーションをはかることができますが、犬と人とのかかわりは常にライブです。長きにわたって生きた関係性を人と持ってきた犬だからこそ獲得できたのであろう、優れた人間観察能力。しかしそれは決して人にとって都合のいいことだけに使われるわけではありません。

以前、『盗み食いは暗がりで・・・』で紹介しましたが、犬は暗いところならば飼い主に見つからずに盗み食いしやすいだろうと判断して行動をとることもあるように、犬には人がどのような状況におかれているかを見て自分の行動を決定する、社会的なシグナルを読み取る能力があることが研究により示されてきています。その一つが飼い主の目です。

10年ほど前に『Journal of Comparative Psychology』に発表された研究によりますと、犬は飼い主の目が行き届いていないところだと、飼い主からいわれたコマンドに従わなくなる傾向にあることが示されています。

中級レベルの服従トレーニングがされている16頭の家庭犬が参加した実験は極めてシンプルで、飼い主から”フセ&マテ”と言われた犬が、飼い主の状況によってどのように行動を変化させるか見たものでした。飼い主が

  1. 椅子に座って犬を見る
  2. 椅子に座って本を読む
  3. 椅子に座ってテレビを見る
  4. 犬に背を向ける
  5. 部屋を出ていく

という5つのうちの1つの行動をとるようにしたところ、1.の飼い主が見ているときがもっとも長い時間確実に伏せて待っていた結果になりました。逆に、4.飼い主が犬に背を向けたり、5.部屋を出ていくなど、飼い主の目が届かなくなっていくほど、犬は伏せて待つことがよりできなくなっていったそうです。

犬たちは、飼い主が自分を見ていることが自分たちに注意を払っている行動であるのを理解していて、そのうえで飼い主の目が届くか届かないかにより自らがとる行動を決めていました。つまりこの場合、飼い主のいいつけを守るか守らないかを決めるのは飼い主の目次第になっていた、ということが示されています。

この結果はしごく当たり前だと感じるかもしれませんが、社会性のある生き物としてとても基本的な部分だと思います。犬にも犬としての自我があるということを、ややもすれば人は忘れてしまいがちではないでしょうか。犬と人の関係はシンプルで常にライブであることを忘れてはならないと思うのです。

(本記事はdog actuallyにて2016年5月26日に初出したものを一部修正して公開しています)

【参考サイト】
Psychology Today